2020年12月9日水曜日

お蚕さまの品種(9)春嶺×鐘月

 春嶺×鐘月(しゅんれいしょうげつ)は、カネボウシルクエレガンスが育成し、昭和43年に春蚕期用蚕品種として登録されました。日欧固定種と中中固定種の交雑種で、繭は白色、繭糸繊度は3.1デニール内外です。虫質強健で飼育しやすいが、稚蚕期の高温多湿の場合三眠蚕が出ることもあるので、適温の保持が肝要です。

 2019年の春嶺×鐘月の蚕種製造数量は1,477箱で、全蚕種製造量の24%を占め、国内各地で広く飼育されています。

 春嶺×鐘月が登録されるに当たり、当時11カ所の蚕業試験場等で蚕品種性状調査が行われました。日本を代表する春蚕用蚕品種なので、その成績を掲載しておきます。

11カ所の蚕業試験場等の調査成績(平均)

【参 考】 2019年の蚕品種別蚕種製造数量              

                                      

2020年10月6日火曜日

令和2年晩秋蚕の繭出荷

 晩秋蚕の繭出荷が行われています。今日(10月5日)は、県内はじめ栃木、岐阜より約2,000kgの繭が碓氷製糸に運び込まれました。

 運び込まれた繭は、①繭の品質を調査するため、各袋からサンプルを採取します。②ベルトコンベアで乾燥場まで運ばれ、繭乾燥機に投入されます。③乾燥機では、投入時110度、6時間後には60度まで徐々に下げて、繭乾燥を行います。④乾燥を終えた繭は、品種別、産地別に繭袋または蜂の巣倉庫に入れて保管します。

 晩秋蚕の繭は、フリはチョット小さめですが、内部汚染繭なども少なく真っ白な繭です。良い原料繭です。

 繭の搬入から乾燥までの工程は、ビデオでご覧下さい。 

2020年9月21日月曜日

首里織展が上毛新聞コラムに登場

 上毛新聞コラム「三山春秋」に、群馬県立日本絹の里で、9月10日から11月3日まで開催されている企画展「首里織展」について、下記のとおり掲載されました。 

▼〈一枚の布には山河がしまい込まれている〉。作家の立松和平さん(故人)が沖縄をはじめ全国各地の「染め織り人」を10年余り取材し感じたことで、染織をこうも表現した


 ▼〈自然と離れることのできない人間の、自然に一歩でも近づこうとする営為である〉と(『きもの紀行』)。沖縄の「首里織」を紹介する県立日本絹の里(高崎市)の企画展を見て浮かぶのは、この言葉だ

 ▼琉球王国の時代から王族、貴族の衣服として継承されてきた伝統の織物。この地の気候風土に育まれた花倉織はなくらおり道屯織どうとんおりなど独特の技法によるおおらかで格調高い作品と、その背景にある「山河」「自然」に引き付けられた

 ▼さらに感銘を受けたことがあった。展示作品の多くは群馬県のオリジナル蚕品種「ぐんま200」の糸が使われているという。しかも碓氷製糸(安中市)で繰糸されたものだ

 ▼県蚕糸技術センターでは特徴ある蚕品種の育成を続けており、1993年の「ぐんま200」は、県人口200万人到達を記念して命名した。輝くような白さと染色性の良さで和装、洋装に広く使われている

 ▼これを選ぶ首里織の姿勢から、品質の高さへの評価とともに、国産絹を使うことにより危機にある日本の蚕糸業を守ろうという思いが伝わる。苦難の歴史を経てきた織物と絹の国群馬とのえにしはもっと広く知られてほしい。





2020年9月19日土曜日

抗菌マスクシート

  9月19日の上毛新聞に「県産絹でマスクシート」の記事が掲載されました。このマスクシートは、碓氷製糸で製造するシルクトウ(繭糸の束)を原料に、大阪に本社のある東洋紡糸工業が抗菌用マスクシートを開発しました。この製品は、碓氷製糸のシルクトウとPLA(ポリ乳酸)で作られたマスク用抗菌性四層プロティンフィルターで、保水性が高く、快適な着け心地、マスクのインナーシートとしてオールシーズン使えます。また、エコロジー重視の生分解性も大きな特徴です。



【特徴】

1 抗菌性  PLA(ポリ乳酸)の弱酸性繊維としての」抗菌作用と2層目の抗菌性繊維が優れた抗菌効果を発揮します。黄色ブドウ球菌や肺炎桿菌に対する強い抗菌効果あ認められています。

2 快適性  シルクの保水性とPLA野放湿性が気化熱を誘発し、夏は肌をひんやり感じさせてくれます。硬質繊維が組み込まれており、ほどよい硬さがマスク内に適度な空間を生み出し、長時間の着用も可能です。

3 生分解性繊維 4層すべてが、シルク、トウモロコシを主とした天然由来の生分解性繊維です。微生物によって無害な物質へと分解する素材は、環境負荷を配慮した現代にふさわしい繊維といえます。 

【生産国】  日本 Made in Japan  

 【詳 細】

区 分

素 材

素材の特徴

組成割合

生分解性

1層目

シルク100

静菌性、美容効果、紫外線カット、保湿性

10

生分解性繊維

2層目

抗菌性繊維100

抗菌性、高保湿性

10

生分解性繊維

3層目

レギュラーPLA

硬質PLA100

植物由来、弱酸性で肌に優しく抗菌性、防臭性

60

生分解性繊維

4層目

PLA100

20

 【使い方】

1 折りたたんである内側を肌にあてるようにしてお使いください。わからなくなった場合は、光沢があり細かいドットがある側、指でなぞってザラッとした感触のある方をマスク側にしてください。

2 手洗いすることで数回程度繰り返し使用出来ます。中性洗剤で優しく押し洗いし、タオルなどで挟み込むように水気を切ってから陰干ししてください。 

2020年9月7日月曜日

お蚕さまの品種(8)錦秋×鐘和

 日本を代表する夏秋蚕用蚕品種が「錦秋×昭和」です。2019年の蚕種製造数量6,0000箱のうち、錦秋×鐘和は2,896箱で5割近くを占めています。

 錦秋×鐘和は、昭和30年にカネボウシルクエレガンスが育成した品種です。日本種と中国種の二元交雑種(実質は日・日×中・中の四元交雑種)で、繭は白色、繭糸繊度は2.8デニール内外です。虫質強健で、高温多湿のとき強健性を発揮するので、夏秋蚕期に多く飼育されています。繭糸長は1,300m内外、繭糸のほぐれもよく、広く国内で飼育されています。 

 蚕の品種を育成する際、①産卵量が多いこと(蚕種業者) ②虫質強健で繭生産量が多いこと(養蚕農家) ③生糸量歩合が高いこと(製糸業者)など、相反する目標が求められます。65年もの長い間、錦秋×鐘和が飼育され続けてきたのは、各業界に支持され、バランスのとれた蚕品種だと言えると思います。

孵化
3令餉食

5令餉食

営繭



2020年9月2日水曜日

お蚕さまの品種(7)ぐんま細

 しなやかで光沢のある絹織物を作るための蚕品種として育成されたのが「ぐんま細」です。

 群馬オリジナル蚕品種には、①世紀二一 ②ぐんま200 ③新小石丸 ④ぐんま黄金 ⑤新青白 ⑥蚕太 ⑦上州絹星 ⑧ぐんま細 ⑨なつこ の9品種がありますが、「ぐんま細」は繭糸繊度2.2デニールと最も細い蚕品種です。

 「ぐんま細」は、群馬県蚕糸技術センターが細繊度蚕品種として育成してきた日本種の「N7NONF」に、「世紀二一」の原種で中国種の「二」を交配した品種です。平成25年9月に、群馬県、養蚕農家、製糸業者、織物業者等で構成されるぐんまシルク認定委員会において「ぐんま細」として認定されました。

【ぐんま細の蚕と繭の特徴】

○4令、5令の飼育日数は、「ぐんま200」とほとんど変わりません。
○ぐんま細の食下量は、「ぐんま200」の90%程度です。
○幼虫はやや小さく、繭も小ぶりなため、収繭量は普通蚕品種の8~9割程度です。
○蚕の発育経過の揃いも良く、虫質も強健で、ぐんま200同様飼育しやすい品種です。
ぐんま細(上)とぐんま200(下)の繭


【ぐんま細の糸の特徴】

○生糸量歩合は、普通蚕品種より1~2%高くなります。
○繭糸繊度は、2.2デニール内外と細く、繭糸長は1500m以上です
○繭糸の最も太いところと、細いところの差(繊度間差)が少なく、繊度ムラの少ない生糸を作ることができます。
○生糸は、破断強度が大きく、丈夫です。
○生糸の白度はぐんま200と同程度、染色性もよく、風合いの良い生糸になります。

蚕品種別粒内繊度の比較


ぐんま細とぐんま200の糸を比較する表のとおりです

【ぐんま細の生糸の評価】
(沖縄の染織作家) ぐんま細の生糸は非常に白く、絹らしい艶、のび、手触り、ぬめり感がとても良い。
(福島機屋) 国産生糸のメリットは、生糸の白度と、手機で織り上げたときの風合いに素晴らしい特徴を発揮する。
(丹後の機屋) 節が少なく製織作業はしやすい。染色性も良い。また、ぐんま細は、普通の織物より柔らかく、しなやかで、風合いの良い生地になった。

 ぐんま細の繭からは、繊度ムラや節の極めて少ない生糸が生産されます。一押しの繭・生糸ですので是非使ってみてください。

2020年8月17日月曜日

お蚕さまの品種(6)ぐんま200

  群馬オリジナル蚕品種「ぐんま×200」は、蚕は丈夫で飼育しやすく、生糸の白度が高いので、養蚕農家さんからも機屋さんからも好評を得ています。

 「ぐんま×200」は、平成6年3月に春蚕用蚕品種として指定を受け、平成8年3月には夏秋蚕用蚕品種として指定を受けて年間を通じて飼育出来る通年用蚕品種です。この蚕品種は、今後の蚕糸業の発展に大きく寄与することを願うとともに、県民が200万人に達したことを記念して「ぐんま×200」と命名されました。「ぐんま×200」は、春蚕、夏蚕、晩秋蚕、晩晩秋蚕に飼育され、群馬県の年間飼育数量の4割以上を占めています。

 「ぐんま×200」は、日中一代交雑二化性の白繭種で、桑にも人工飼料にも適し、眠起はよく揃い飼育しやすい品種です。幼虫の体色は青系で斑紋は形、繭のちぢらは普通です。

 生繭繰糸にも適し、生産された生糸の白度は高く、繭糸繊度は、春蚕期が3.0デニール内外、夏秋蚕期が2.7デニール内外。繭糸長は、春蚕期が1400m内外、夏秋蚕期が1200m内外となっています。

 平成20年度群馬県蚕糸技術センターが群馬県繊維工業試験場の協力を得て「群馬オリジナル蚕品種の生糸と外国産生糸の性状比較」を行ったところ、①生糸の練減率と伸度は、国産糸、中国糸、ブラジル糸の間に大きな差は無かった。②生糸の破断強度は一般的に強い生糸の目安とされる4.0gf/Dを上回り、「ぐんま黄金」と「上州絹星」が特に高かった。③白度はどの品種も同程度だが「ぐんま200」が高かった。

このように、「ぐんま200」の白度については、試験研究機関の調査により証明されています。

白度試験成績でわかるように、白度の高さが「ぐんま200」の最大の特徴

 

「ぐんま200」の繭と生糸
繭の形は楕円形で、解じょの良さがこの品種の特徴

 





2020年8月11日火曜日

一代雑種とは

 養蚕の発展を支えた技術革新としては、蚕当計、一代雑種、人工孵化、人工飼料、遺伝子組換え蚕などが上げられるが、繭生産に最も貢献した技術は外山亀太郎博士が1906年(明治39年)に提唱した「一代雑種」の利用だと思う。
 生物は、近親交配を続けると弱くなっていくが、遠縁の系統同士を交配すると、その子の一代だけは生育旺盛で揃いも良く多収になる。この現象をヘテロシス(雑種強勢)という。一代雑種の主な特徴は①産卵数が増える ②孵化や眠起が斉一で幼虫の経過が短くなる ③病気や不良環境にも強くなり飼育が容易 ④繭重、繭層量が多くなる ⑤繭糸繊度が太くなり繭糸長も長くなる などである。
 トウモロコシでは一代雑種の利用は知られているいるが、植物の一代雑種の第一号は1926年に埼玉県農業試験場で作出されたナスと聞いている。
 さて、養蚕農家が飼育している蚕品種は、雑種強勢を利用するために交雑種が使われており、その卵を「普通蚕種」という。この普通蚕種の製造に用いる蚕種を「原蚕種」という。
 二つの品種間の交雑で、最も強く雑種強勢が現れるのは一代雑種(単交雑)で、虫質強健で均一な繭が生産される。しかし、この単交雑の欠点は、普通蚕種を作るために飼育される蚕(原蚕)が弱く、産卵数が少ないことである。単交雑の欠点を補うために考え出されたのが四元交雑で、現在広く利用されている。
交雑形式を図示すると次のとおり。

 
 

2020年8月4日火曜日

お蚕さまの品種(5)世・紀×二・一

 世・紀×二・一(せいきにいち)は、群馬県蚕業試験場が13カ年かけて育成した日中四元交雑の二化性品種で、平成3年に中細繊度の特徴ある蚕品種として品種指定された。
【育成の背景】
 当時、和装絹織物の一層の高級化を図るため、繭糸繊度が従来の和装用より細い中細繊度で、しかも繭糸繊度偏差の少ない繭が要望されていた。育成にあたっては、一般普及品種と比較して、農家や製糸の生産性の劣らないことを目標とした。
【性 状】
 全国7カ所の試験研究機関で行われた蚕品種性状調査の結果を見ると、対照品種に比べ5令の飼育日数がやや長く、化蛹歩合は96.5%と高く、繭糸繊度は2.6デニールと細く、繭糸長は1500m以上と長かった。

【繊度曲線】

「世・紀×二・一」と一般蚕品種の繭糸繊度曲線を比較すると、「世・紀×二・一」では最外層から200m付近のピークが認められず、最内層まで穏やかな曲線を描き、細くなっている。また、「世・紀×二・一」は、最も細い最内層部の繊度は一般蚕品種と大差なく、繊度偏差は小さくなり、粒内繊度の変動係数は低くなった。

世・紀×二・一の繭と生糸
「世・紀×二・一」は、群馬県無形重要文化財保持者だった藍田正雄さんによって染色性の良さが認められた。「世・紀×二・一」の生糸には蛍光黄変色素が含まれていること、セリシン2層部には溶けにくいセリシンを含んでいることが、染色性につながっていると思われる。



生糸等の精錬について

 フィブロインを化粧品原料にする場合、生糸等を精錬(セリシンを取り除く)する必要があります。精錬する場合、素材によって次のような違いがあります。
【繭の精錬】
○繭を切って蛹をとりだし内部をきれいにするためには、機械装置は必要としないが多くの手間と時間がかかります。
○繭を精錬する場合、精練剤が繭層の中まで浸透しにくいので、最低でも2回精錬する必要があります。
【生糸の精練】
○生糸は、選繭、煮繭、繰糸の工程を経て製造されるので、ゴミや汚れがほとんどなく、とてもきれいな素材です。
○生糸は抱合(繭糸同士がしっかり固着している)がよいので、1回の精錬ではセリシンを除去仕切れない場合があります。
【シルクトウの精錬】
○シルクトウ(繭糸の束)は、絹紡糸の素材、シルク綿の素材として開発されました。
○シルクトウは、選繭、煮繭、繰糸の工程を経て製造されるので、ゴミや汚れはなく、とてもきれいな素材です。
○シルクトウは繭糸が束状になっているので、精練剤が浸透しやすく、1回の精錬で完全にセリシンを除去することができます。
碓氷製糸でも、注文に応じてシルクトウを製造しています。

シルクトウ繰糸機
繰解槽には約1500粒の煮繭が入っており、これを一度に挽きあげます
上の写真の巻取り機の枠周は1.5mです

精錬前のシルクトウ
精錬後のシルクトウです
繭糸が完全に分繊しています



2020年7月28日火曜日

お蚕さまの品種(4)上州絹星

 群馬オリジナル蚕品種「上州絹星」は、在来種の「又昔」に、「あけぼの」の血をひく「二(群馬県蚕業試験場育成)」を交配した日中一代交雑種です。平成19年2月の「ぐんまシルク」認定委員会において「上州絹星(じょうしゅうけんぼし)」として認定されました。
○上州絹星の特性
 蚕児の発育は斉一で、虫質も強健で飼育しやすいのですが、普通蚕品種に比べ飼育経過は短く、特に5令期は2日ほど早まり、収繭量は2割程度少なくなります。
 中細繭繊度(2.4~2.6デニール)の蚕品種で、織物の強伸度、摩擦抵抗性及び防しわ性にも優れた特性を有しています。
○蛍光黄変色素及び精錬抵抗性セリシンの含有
 上州絹星の生糸には蛍光黄変色素が含まれています。また、生糸セリシン2層部には溶けにくいセリシンを含んでいます。これらの存在が染色性に優れ、強伸度、摩擦抵抗性、防しわ性に効果がある要因と思います。
飼育経過は、普通品種に比べ1~3令で1日半程度短く、4~5令も2日程度短い。
化蛹歩合は高く、虫質は強健。


繭形は浅いくびれのあるやや長楕円形で、繭色は淡い緑黄色が混ざる。
繭重(約1.6g)、繭層歩合(約19.6%)は、一般蚕品種に比べ2割程度低い。
生糸量歩合は17%程度で、一般案品種より低い。繭糸繊度は中細で2.4d~2.6d程度

上州絹星の生糸は、全セリシン量が少なく、フィブロインの割合が高い。
セリシンの性状として、精練剤に溶けがたいセリシンを含んでいる。
これらが染色性、摩擦抵抗性、防しわ性に効果のある要因となっている。

2020年7月13日月曜日

お蚕さまの品種(3)又昔

 日本蚕品種実用系譜によれば、又昔は福島県伊達の蚕種家伊藤彦治郎が元文寛保の頃(1740年頃)育成した小巣の品種で始め「マタムカシ」、「又むかし」と称し明治以後「又昔」と記されるようになった。
 ※外山亀太郎博士は、又昔は伊達地方に往古より飼育されたいた普通の赤塾系のものから”繭は長楕円形で中央の縊れ甚だ少なく両端少しく突出した観がある小巣系”を選出したものと推定している。
 又昔は育成された元文寛保の頃(1740年頃)から、特に明和前後(1770年頃)から世に知られ、製糸原料に好適するものとして広く養蚕地方に普及し、文化文政の頃(1820年頃)にはその需要は他品種に遙かにまさるようになった。明治時代に入ってからは、青白流行期(明治15年頃まで)、赤塾流行期(明治20年頃全盛)には又昔の実際の需要は少なかったが、明治20年頃から小巣白繭種の流行時代となってからは、小石丸とともに各地に広まるようになった。小巣白繭流行の初期には小石丸が全盛を極めたが、小石丸が「縊目の深い繭は解じょ不良で節が多い」との非難を受けたため、小石丸は明治32年頃から急に需要が減退するようになった。又昔はこの頃から需要が一層多くなり大正初期に至るまで各方面に愛用された。

 つい最近、又昔の繭、生糸生産が群馬で行われた。
前橋の人形製作工房から、「昔の人形の御衣装を復元したいので、又昔の生糸を作ってもらえないか」との依頼により、平成15年関係者連携して又昔の飼育、生糸生産に取り組んだ。飼育方法は稚蚕も壮蚕も桑育、上蔟は一頭拾い、蔟は万年蔟を使用した。できた繭は俵型、繭重は1.5g前後だった。その繭を上州座繰り器及び一緒の検定器で繰糸を行った。生産された生糸の評価は「生糸は銀色に輝き、染め上がり良く、生地は柔らかくコシがある」とのこと。誠実に、精巧に、そして美しく作り上げる日本のものづくりの原点を体験することができた。

2020年7月6日月曜日

お蚕さまの品種(2)小石丸由来の品種

小石丸由来の蚕品種としては、新小石丸、改良小石丸、玉小石の3種類があります。
【新小石丸】
 平成8年群馬県蚕業試験場(現群馬県蚕糸技術センター)が育成した蚕品種です。絹業者から「小石丸を製品化出来ないか」との要望を受け、小石丸の性状をそのままに、自動繰糸機にも対応出来る品種として育成しました。これは、在来種の小石丸と群馬県が育成した世・紀×二・一の「二・一」を交配した品種で、繭は俵型をしており、春蚕期の繭糸繊度は2.5d内外、繭糸長930m内外、生糸量歩合は15~16%と少なめですが、光沢のある優良生糸が得られ、生糸は太さにムラがなく、高級和装用として使われています。

【改良小石丸】
 平成15年に大日本蚕糸会蚕業技術研究所で育成された蚕品種です。蚕業技術研究所では小石丸の選抜育種を行い、これを「TKO系統」として維持しています。このTKO系統に研究所が保有している繭糸が細い中国種系統の「TC54」を交配し、量的形質を向上させた蚕品種「TKO×TC54」を育成しました。これを栃木県が採用し、「改良小石丸」と名付けています。繭はくびれの浅い俵型で、生糸量歩合約15%、春蚕の繭糸繊度2.4d内外、繭糸長960m内外で、選繭の徹底、低速繰糸により蚕品種の特長を活かした生糸を生産しています。

【玉小石】
 国内には玉糸を使った伝統的な織物がありますが、国内繭生産量の減少により玉繭(2頭以上の蚕が作った1個の繭)の入手が難しくなりました。蚕業技術研究所では平成16年玉繭を作る新たな品種の育成に着手しました。玉繭品種の育成にあたっては、糸質が優れていて、ブランド力があることから「小石丸」による育成を行いました。まず小石丸から玉繭を作りやすい系統を選抜します(A系統)。糸量を増やす目的で他の品種を交配させ、小石丸を戻し交配します(B系統)。このA系統とB系統を交配した品種が「玉小石」です。玉繭を作らせるために上蔟には万年蔟を用います。ちなみに玉小石の玉繭産率は35%内外です。

小石丸と新小石丸の比較
シルクレポート28号より転載


2020年6月30日火曜日

お蚕さまの品種(1)小石丸

 日本には、たくさんの遺伝資源があります。600種類とか800種類とか。農家でもたくさんの品種(交雑種)が飼育されており、群馬県だけ見ても、春嶺鐘月、錦秋鐘和、ぐんま200、ぐんま細、ぐんま黄金、新小石丸、松岡姫、なつこ、それに原種の小石丸も飼育されています。
 
 蚕品種に対しては蚕糸関係者みんなが関心を持っています、蚕種業者は産卵量が気になるでしょうし、養蚕農家は病気に強く大きな繭を作る蚕品種を望んでいます。製糸業者は解じょが良く生糸量歩合の高い品種を希望し、絹業者は、繊度ムラや節が少ない生糸や特徴ある生糸を求めています。
 
 そこで、日本の蚕品種について少し調べてみたいと思います。
 第1回目はロイヤルシルクといわれ、皇居御養蚕所で飼育されている「小石丸」についてです。
 平塚英吉先生が1969年に著した「日本蚕品種実用系譜」によれば、小石丸は長野県小田中源右衛門が寛政の初年(1790年頃)に中如来種から特別良種を発見したもので、虫質強健、眠起斉一、繭形やや小なるも光沢優美、解じょ良なる良種である。小田中源五郎によれば、小石丸は長い星霜を重ねる間に繭型の変移があった。発見当時は短小なりしも天保年間に至りやや豊艶に進み枡粒約450となり、明治の初年は約370、明治20~30年には300内外、明治末頃には270となった。この間に虫性は変化無く、殊に病感の憂なく、食桑少なく結繭多量であって卓越せる品種であるという。
 小石丸の由来については種々の説があるようですが、小田中源右衛門育成説が多くの支持を得ているようです。
 いずれにしても古い選出の歴史を持っており、寛政文化の頃すでに相当の人気があり、天保から嘉永にかけて盛んに用いられ、その後明治時代にわたり長く愛用されたことは、実用性の高い品種であったことを示しています。
 
 皇居紅葉山御養蚕所で飼育されている小石丸については、明治38年皇太子妃殿下(貞明皇后)が当時の東京蚕業講習所(現在の東京農工大学)に行啓され、養蚕や製糸を視察されました。その折、当時最も優秀な蚕品種とされていた「小石丸」の献上を受けられたものです。
 
 碓氷製糸でも、京都の工房からの委託を受け、小石丸の繭と生糸の生産を行っています。
小石丸の繭の単繭重は約1.2g(交雑種は約2g)くらいと小さく、生糸量歩合も約8%(交雑種は約19%)と少なく、極めて貴重な繭と生糸です。
 貴重な繭を生糸に加工する製糸工程も、高品質な小石丸生糸を作るために、1人3緒(自動繰糸機の場合は1人60緒)を担当し、低速で繰糸されています。

上から、小石丸、新小石丸、ぐんま200の繭です。小石丸は日本種特有の俵型をしています。

小石丸の繰糸。1人3緒を受け持ち、低速繰糸しています。

2020年6月18日木曜日

繭の乾燥と貯繭

 農家で生産された繭は、営繭をはじめてから2週間くらいで蛾が出てしまうため、製糸工場に運ばれた繭は直ちに乾燥されます。
 明治5年に設立された官営富岡製糸場では、蒸気で蛹を殺し、天日や風で繭を乾燥させたそうですが、現在は熱風式バンド型乾燥機(多段)を使って繭を乾燥しています。
 乾燥機は、8室に分かれており、最初の部屋は110℃、最後の部屋は60℃の熱風で、約6時間かけて繭を乾燥します。
その後計量され、ベルトコンベアで繭倉庫(蜂の巣倉庫)に運ばれます。碓氷製糸では、蚕品種別、産地別に保管し、高品質で多様な生糸生産を行っています。
また、生挽きの場合には、冷凍庫に繭を保管し、発蛾を抑え、繰糸を行います。
繭の乾燥から貯繭までの工程は次のとおりです。
1 製糸工場に運ばれた繭は、トラックスケールで計量され、出荷伝票と照合します。
2 選除繭歩合、生糸量歩合、解じょ率などの繭の品質を評価するため、サンプルを採取します。
3 繭乾燥機に投入され、長期間貯蔵できるように繭乾燥を行います。農家が出荷する繭を「生繭(なままゆ)」、乾燥した繭を「乾繭(かんけん)」といいます。
4 乾燥が終わった繭は、繭倉庫(蜂の巣倉庫)に保管されます。蜂の巣倉庫は、建物内が蜂の巣のように小部屋に分かれており、蚕品種、蚕期、産地別に繭を保管します。 
 では、繭出荷から乾繭の貯蔵までの工程を動画でご覧ください。
 

ぐんま細の繭出荷

 6月17日(水)ぐんま細の繭が約400kg出荷されました。
出荷された繭からサンプルを取り、繭調査を行ったところ、500g粒数は298粒(単繭重1.68g)、うち選除繭としては、玉繭1粒、薄皮繭2粒、極小繭8粒です。井上さんには最高の繭を生産していただきました。ありがとうございました。
※極小繭は、2粒接緒になりやすく繊度ムラの原因になるので、選除繭の一種です。
 500g粒数:298粒は繭がチョット小さく感じるが、繭糸繊度を細くするためにはちょうど良い繭の大きさです。

 碓氷製糸では、昨年度ぐんま細の生糸を試作し、その生糸の評価をいただくため、オーガンジー、刺繍糸、沖縄、京都、東京の工芸家、丹後ちりめん等の関係者に生糸サンプルを提供してきました。
このたび、丹後ちりめんを製織する会社及び東京の染色会社から、次のような評価をいただきましたので、紹介させていただきます。
1 繊度ムラについてはややあると思う。その理由は整経の段階で急に細くなるのをたまに感じた。
2 節は少ない。 撚糸の段階で生糸が切れないので節は少ない。整経、製織の段階でも節は少なく、すべての段階で仕事がやりやすい。
3 練減率についてはあまり変わらない。
4 染色性は良い。 型染め時に反物の耳が厚くならないので型送りがしやすい。
5 その他  ぐんま細は、普通の織物よりかなり柔らかくしなやかさがあり、風合いの良い生地に仕上がった。柔らかいということは、しわ回復性が良いのではないかと思う。また、製織時に白い粉(セリシン)が出にくい。
 ※丹後の機屋さんから、「整形の段階で急に細くなるのをたまに感じた」との評価をいただきましたので、本年産の生糸についてはその様なことのないよう原因と対策を検討中です。

自動収繭毛羽取機マユクリンで毛羽取り
出荷を待つぐんま細の繭
製糸工場に出荷されたぐんま細の繭


ぐんま細の繭と生糸

2020年6月17日水曜日

春蚕の収繭作業

安中市の井上豊さんの収繭作業を取材しました。
井上養蚕所の2階は上蔟室になっており、回転蔟約200回転が天井からぶら下がっていました。
上蔟後9日目から収繭作業が始まり、上蔟後11日目に繭出荷となります。
(蚕が蛹にならないうちに蔟を動かすと、蚕が頭をぶつけて死んでしまうため、あまり早い作業は厳禁)
収繭作業の手順は次のとおりです。
1 吊ってある回転蔟を下ろし、ボール蔟をはずします。
2 ボール蔟をよく見て、玉繭、汚れている繭、薄皮繭、死にごもりなどの悪い繭を取り除きます。
3 自動収繭毛羽取機マユクリンで繭の毛羽を取り除きます。
4 繭がよく乾くように、蚕座紙の上にうすく繭を拡げます。
5 出荷当日は、自前の選繭台でさらに繭の選繭を行います。

 生糸品質は、原料繭8割、工務技術2割と言われています。そのためにも、出荷前の選繭作業(悪い繭を取り除く作業)は特に大切です。
 収繭作業の様子は動画をご覧ください。選除繭の種類は写真のとおりです。

  

2020年6月9日火曜日

春蚕の上蔟作業

 安中市の井上豊さんの上蔟作業を取材しました。 飼育数量は24万頭、蚕品種は群馬県蚕糸技術センターが育成した細繊度蚕品種の「ぐんま細」です。 5月30日の朝に5令の桑付けだったので、5令の経過日数はまる8日で上蔟となりました。 農家により上蔟作業方法は異なりますが、井上さんの方法は次のとおりです。 1 上蔟の半日前(昨日の夕桑前)に網をかけ給桑します。 2 7日の朝早く桑をくれ、蚕には十分食べさせてから上蔟作業を始めます。 3 網の上に蚕をはたきます。 4 はたいた蚕を集め、2階の上蔟室へ運びます。 5 蚕座紙の上に拡げ網をかけます。(桑葉やゴミと蚕を分けるため) 6 網の上に上がった蚕を集め、回転蔟に振り込みます。 一枚のボール蔟への振り込み頭数は約120頭です。 7 約半日経過したら、回転蔟を吊り下げます。  井上さんの上蔟には、自動条払い機を使っていません。蚕がケガをするのがかわいそうで、使わないそうです。 
蚕の飼育上の留意点ですが、4令は健康に育つよう防疫管理、温湿度管理に留意し、5令は大きな繭を作るよう十分に桑を与え、上蔟後は解じょ(繭糸のほぐれ具合)のよい繭を作るよう温湿度管理を徹底することが大切です。
 ところで、井上さんのおじいさん(井上久良雄さん)がすごい人なんです。 昭和57年には年7回蚕を飼育し、7002kgの繭を生産。農林水産祭で天皇杯を受賞した方です。 今も養蚕時期には桑くれを手伝っています。

2020年6月4日木曜日

春蚕 5令盛食期

 安中市の井上豊さんの養蚕状況を取材しました。今日は5令6日目で、 桑取り、桑くれと最も忙しい時期です。 5令の給桑回数は3回+補給、桑とりは約1200kg(面積にして桑園10a)くらいです。 1923年生まれのおじいさんも一所懸命お手伝いをしています。
さて、5令飼育の留意点はつぎのとおりです。
①5令期に入ると、蚕座面積も広くなり、給桑量も多くなるので、工夫しながら 作業の省力化に努める。 ②5令期の適温は22℃~24℃。でも5令期は20℃を下回っても飼育経過は伸びるが 繭生産にはあまり影響しない。 ③蚕座面積としては、0.1㎡当たり120頭くらいの飼育密度が望ましい。 ④この時期の食桑量は繭の大きさに影響するので、桑不足にならないようにする。 ⑤「5令は風で飼え」というくらいなので、飼育室の通風換気を図ること。
新型コロナウイルスの影響で、シルク産業は大変厳しい状況ですが、養蚕農家は 良い繭を生産するために、蚕のウイルスにも、人間のコロナウイルスにも負けず に頑張っています。 皆さんの応援よろしくお願いします。

2020年5月27日水曜日

春蚕期 農家での飼育が始まりました

 5月20日は、春蚕期のお蚕さんが稚蚕共同飼育所から養蚕農家へ配蚕となりました。
飼育所からコンテナに入った蚕を受け取った養蚕農家は、蚕室に運び、次のような作業を行います。
①飼育台に蚕を拡げます。
②網をかけます。
③桑を5cmくらいの大きさに切ります。
④桑を蚕に与えます。明日の朝には眠に入る蚕が出てきます。
  配蚕後は、25℃くらいに温度を保つこと、カビやウイル市を持ち込まないようにすることが大切です。
 稚蚕共同飼育所での配蚕風景及び養蚕農家での「配蚕後の取り扱い」については、動画を参考にしてください。


春蚕期に飼育されている蚕の品種

 春蚕で飼育されている蚕品種は、群馬オリジナル蚕品種の「ぐんま200、「新小石丸」、「ぐんま細」、「ぐんま黄金」とカネボウが育成した「春嶺鐘月」、紅葉山御養蚕所と同じ「小石丸」です。
 「蚕太」は、ニット用に開発された太繊度蚕品種です。シャリ感があって面白い生糸ができます。夏物の帯やきものにも適している素材だと思います。でも、チョット飼育しづらいので休止中。




2020年5月10日日曜日

令和2年春蚕の飼育が始まりました

 令和2年の養蚕が始まりました。
 群馬県の春蚕は、5月8日、5月10日に掃立(孵化した蚕にはじめて餌を与える作業)が行われました。
 稚蚕飼育(孵化してから3令までの蚕の飼育)は、前橋市にある大胡稚蚕共同飼育所、富岡市にある小野稚蚕共同飼育所で行われています。

 写真は、①孵化まえの蚕種、②孵化が始まった蚕種、③餌を求めてうごめいている蟻蚕(動画)です。
この写真は、昨年の春に1匹の蛾が産んだ「ぐんま200」の卵です。
品種によっても異なりますが、大体500粒前後の卵を産みます。
孵化が始まった蚕の卵です。白くなっているのは蚕が孵化した卵です。
黒いのは、これから孵化する卵です。
よーくみると、蚕が餌を求めてうごめいているのがわかると思います。
孵化したばかりの蚕は、毛蚕(蟻蚕)と呼ばれています。これは、体調に比して、
剛毛が長いので、毛深く見えます。

2020年5月6日水曜日

碓氷製糸の「製糸工程解説ビデオ」が上毛新聞紙上で紹介されました


 碓氷製糸株式会社が制作した「製糸工程解説ビデオ」が、5月5日(火)の上毛新聞に掲載されました。
製糸工程解説ビデオの内容は、繭から生糸ができるまでの工程や製品の特徴、県が育成したオリジナル蚕品種の紹介、高品質で多様な県産シルクの魅力についてです。
動画は約14分で、入荷された繭の選別や煮繭、糸口を引き出す索緒、製糸、揚げ返しといった一連の作業を紹介。軽くて毛糸のように膨らむ「ネットロウシルク」や太くて低張力の「太繊度低張力糸」といった特徴ある生糸も登場します。


 このビデオのDVDは碓氷製糸のシルクショップでも販売しています。また、ご希望の方には、郵送もいたします。
 価格は、税込み990円(郵送の場合は+送料)です。
 詳細については,碓氷製糸までお問い合わせください。


モロコシの種子をお譲りします

 上州座繰り器を使って糸挽きするとき、煮繭から糸口を出すのにミゴボウキかモロコシボウキを使います。
 5月5日、モロコシボウキの種子を畑の隅に播種しました。種子が少し剰りましたので、先着20名様にお譲りします。もちろん無料です。(お一人様100粒くらい)
 希望される方は、〒、住所、氏名、E-Mailアドレスをご連絡ください。碓氷製糸のE-Mailアドレスは、usui@xp.wind.jpです。
 (参考)モロコシとは、イネ科の一年生植物・穀物です。タカキビとも呼ばれています。外来語の呼び方としては、コーリャン、ソルガム、ソルゴーなどがあります。

「赤城の節糸」、「赤城の黒糸」と呼ばれる座繰り生糸を繰糸するおばあちゃん

モロコシの穂を調整(実を扱いて長さを調整)したモロコシボウキ

世界遺産伝道師協会の座繰り講習会で、揚げ返しの説明をする狩野