2021年9月30日木曜日

繭糸束について

【繭糸束に関係する素材について】
(1)篠生糸  昭和19年鐘ヶ淵紡績新町工場(後の鐘紡)が開発した無抱合、無撚り
      のセリシン付き繭糸の束で、これを速度の異なるローラーに挟んで、短
      繊維化し、絹紡糸の原料とした。
(2)シルクトウ  シルクトウとは、1500~2000粒の繭を一斉に緒を揃えて繰糸し
      た無抱合、無撚りで分繊したセリシン付きの繭糸束のことを言う。こ
      れは、1992年頃、蚕糸、昆虫農業技術研究所が篠生糸の技術を改良した
      もので、「シルクトウ」と命名され、絹紡糸や布団の原料とされた。
(3)シルクフィル  2011年農業生物資源研究所が開発したシルク綿である。シルク
      フィルの製造方法は、大量の繭から一斉に繭糸を引きだし、引き出した繭
      糸を濡れた状態のまま大枠に巻き取り、乾燥させる。その後精錬して、
      不要成分のセリシンを溶かし、フィブロイン繊維だけにして乾燥、ほぐ
      して綿上にしたものである。

【碓氷製糸の繭糸束製造】
 碓氷製糸では、シルクフィルの原料となる繭糸束を「シルク筒」として、製造・販売しています。その製造方法を動画で紹介します。

【繭糸束と精錬】
 フィブロインを化粧品原料とする場合、繭糸からセリシンを落とす精錬が必要となります。精錬する場合、素材によって次のような違いがあります。
(1)繭を精錬する場合   繭を切って内部をきれいにしその後に精錬します。精練
             剤が繭層の中まで浸透しにくいので、最低2回の精錬が必
             要となります。
(2)生糸を精錬する場合  生糸は抱合(繭糸同士がしっかり固着している)が良い
             ので、1回の精錬ではきれいにセリシンが落ちない場合が
             あります。
(3)繭糸束を精錬する場合 繭糸束は一回の精錬で、セリシンを完全に除去できるの
             で、ピュアなフィブロインが抽出できます。

【繭糸束の製造方法】
 繭糸束の基本的な製造方法は、次のビデオのとおりです。


2021年9月9日木曜日

ネットロウシルク(網状生糸)について

 【ネットロウシルクとは】                             通常生糸は、7~9本の繭糸から作られますが、ネットロウシルクは30~50個の繭の糸が網状になって一本に集約されます。糸がちぢれるために1200m分の糸が約200mの長さにしかなりませんが、普通のシルクより軽く毛糸のように膨らみ、「冷たく、重い」というシルクの常識を覆す生糸です。なお、毛羽立ちを抑えるために、生糸でカバーリングを行い出荷しています。

【繰糸方法】                                   ネットロウシルクの繰糸方法は、煮た繭から引きだした繭糸を形成枠上で網状に編成し、それを更に小枠に巻き取るというものです。このような形態を持ったネットロウシルクは、嵩高性、伸縮性に富んでおり、生糸と紡績糸の特徴を併せ持った生糸です。また、ネットロウシルクの芯には、伸縮性のナイロンポリウレタン、金糸、銀糸、綿など、様々な繊維を入れることができ、様々な用途に対応することができます。






【芯糸の異なるネットロウシルク】                         ネットロウシルクは、芯糸に様々な素材を使うことができます。芯糸の素材により、生糸の表情も性質も全く異なります。素材の違いによるネットロウシルクは下写真のとおりです。あなたも新たなネットロウシルクに挑戦してみませんか。



【ネットロウシルクの用途】                            ネットロウシルクの嵩高性を活かして、ストール、ボディタオルなどに使われています。ナイロンポリウレタンを芯材としたネットロウシルクは、伸縮性を活かしてストールなどに使われています。

太繊度低張力糸(ふい絹)について

  正倉院に保存されている「税」としての「絁」は、繭から挽きずりだした太糸で、セリシンが残っており、張力をかけずに時間をかけて糸にし、大変な手間をかけて織り上げたものと考えられています。

 大日本蚕糸会蚕糸科学研究所が開発した太繊度低張力糸(ふい絹)は、カイコが吐いた繭糸の機能をそのまま身に纏うことを目標に開発された生糸です。

【太繊度低張力糸とは】                                 ①低張力繰糸(繰糸スピードを落とした繰糸)により、繭糸の持つちぢれを残してその特性を活かす。 ②真綿のように繭糸の絡みによる強さの機能を活かす。 ③繊度を太くすることにより、セリシンを残し、セリシンの持つ吸湿、保温の機能を活かす。このような特性から、しわや洗濯に強い「普段着」としての衣料、言い換えれば「軽くて暖かく、また柔らかで爽やかで、着るほどに体に馴染む衣料」の素材に適しています。しかし、繭からほぐれるときに出る綿状の節や、太さのムラの発生もあり(これらも繭糸の持つ本来の特徴である)、従来の生糸の規格水準からすると欠点要素も持っています。

【太繊度低張力糸の繰糸方法(フィッシングアップ方式)】                           カイコの吐いた糸の形状(ちぢれ)を残すために、繭糸一本当たりの張力が0.4g以下となるように繭糸を引きだし、たるんだ部分だけを巻き取る方式。大日本蚕糸会蚕糸科学研究所で、フィッシングアップ方式を機械化し、大量生産が可能となりました。

【太繊度低張力糸の用途】                             これまでの用途としては、セーター、ストール、夏帯などに使われています。

【太繊度低張力糸(丸)】                             繰糸能率を向上させつつ、太繊度低張力糸の特徴をいかした生糸が「太繊度低張力糸(丸)」です。ふい絹は光沢のある扁平糸ですが、「丸」は独特の繰糸方法により生糸が丸みを帯びています。価格の安いのも大きな特徴です。 しかし、繰糸の際に出る毛羽状の綿や繊度ムラがふい絹より大きいことなど、欠点要素もあります。