2022年5月21日土曜日

クワにはアブラムシが着かない?

  クワにはアブラムシが着かないと言われています。着かない理由について農研機構(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)に聞いてみました。

 農研機構からの回答は次のとおりです。                      (1)クワは葉や茎を傷つけると乳液という少しべたつく白い液が出てきます。乳液を出す植物はほかにもありますが、一般的にアブラムシが少ない印象があります。例えばレタスなどでは、アブラムシが植物表面を歩いて葉の汁を吸おうとするとベタベタした乳液が出てきて、脚や口が張り付いて動けなくなったり、口の管が詰まったりすることが観察されています。                  

(2)農研機構では、桑の乳液に糖類似アルカロイドとかMLXタンパク質のような、昆虫にとって毒になる物質がたくさん含まれていることを明らかにしました。MLX56はアブラムシの成長を阻害する効果があることが報告されています。 

なるほど クワにアブラムシが少ないのはそういうことだったんですね。 

夏切桑園(6月、9月に収穫する桑園)

春切桑園(7月、10月に収穫する桑園)

夏切桑園の新梢


2022年3月17日木曜日

群馬の蚕糸業について

  群馬県内の四資産で構成される「富岡製糸場と絹産業遺産群」は、平成26年6月にユネスコの世界遺産に登録されました。世界遺産登録運動等により、蚕糸業の社会的・経済的価値や文化的価値が見直され、生きている蚕糸業の維持・存続に大きく貢献しています。

群馬県における蚕糸業の状況については、次のとおりです。                             

(1)現在でも群馬県は、①桑苗 ②蚕種 ③稚蚕共同飼育所 ④養蚕農家 ⑤製糸工場まで、繭・生糸を生産するのに必要なすべてが揃っている全国唯一の県です。

(2)養蚕農家や繭生産量を確保するため、大日本蚕糸会、県、市町村の支援により、再生産可能な繭代が確保されています。

(3)養蚕への新規参入にあたっては、県、市町村等一体となって桑園の確保、養蚕資材の確保をはじめ、養蚕技術を習得するために「ぐんま養蚕学校」も開講しています。

(4)蚕糸絹業を多くの方々に紹介するため、「群馬県立日本絹の里」が建設され、蚕糸絹業に関する多くの情報を発信しています。

(5)さらには新蚕業を創出するため、遺伝子組換えカイコの研究・開発にも取り組み、稚蚕共同飼育所を使用した有用物質生産、一般農家での高機能シルク生産も行われています。

碓氷製糸株式会社も、川上から川下までの方々との連携による純国産絹製品の生産・販売に尽力し、蚕糸に関する技術の維持・継承や絹文化の普及啓発に貢献してまいります。





2022年3月16日水曜日

碓氷製糸は「高品質かつ特徴ある生糸生産」を目指しています

碓氷製糸株式会社は3月から新年度を迎えました。また、6月からは新繭の収納及び繰糸が始まります。本年度も純国産繭・生糸にこだわり続け、ホルマリンを一切使わず、高品質かつ特徴ある生糸生産を進めてまいります。                             蚕の種類、繭の生産地、繭の処理方法、繰糸機及び繰糸方法などを組み合わせることにより、外国産ではまねのできないオリジナル生糸を作っていきます。



(1)染色性を重視されるお客さまには、白度の高いぐんま200」の生繭を原料に、低速繰糸で生糸生産を行います。                        (2)繊度ムラなくしなやかな生地を作りたいお客様には繭糸繊度2.2デニールの「ぐんま細」を原料に低速繰糸で生糸生産を行います。                  (3)ちょっと変わったストールを検討されているお客様には、ネットロウシルク(網状生糸)をお奨めします。芯糸にはナイロンポリウレタン、金糸、銀糸などいろいろな糸を入れることができます。                                      その他お客さまと共にオリジナル生糸の開発・生産を進めます

2022年2月14日月曜日

遺伝子組換えカイコについて(5)

 群馬県蚕糸技術センターの「令和3年度成果発表会」において、「遺伝子組換えカイコによる高機能シルク生産」についての発表がありましたので、概要について投稿します。

○高染色性シルクの繭生産と生糸生産                        高染色性シルクは染色性が高いとともに、繭糸が超極細という特徴がある。       令和3年度は、2戸の農家が延べ3回、10箱の飼育を行い、生糸が生産された。      下表はその実績である。品種の特性として単繭重は1.5g程度、生糸量歩合や解じょ率はあまり良い成績ではないが、繊度については概ね期待通りとなった。

○遺伝子組換えカイコによる高機能シルクの今後の課題               (1)高染色性シルクは、緒極細であることが繰糸効率を下げてしまう。また、繭が小さいため箱当たり繭生産量が少ない。                          (2)カルタヘナ法1種使用に則った取り扱いが必要となる。そのため、蚕室の改修、作業制限、飼育後のクワコモニタリングなどの経費と労力を求められる。          (3)前述の要素は繭担架、生糸単価に跳ね返るため、生糸実需者にとっては原料に大きなコストがかかる。                                 (4)これらを解決するため、川上~川下までの連携と新たな用途開発により、日本発の新蚕業の創出が期待される。
高染色性シルクを生産する繭

高染色性シルク繭を使った21中の繰糸

群馬オリジナル蚕品種「なつこ」の実用飼育

 令和4年2月9日 群馬県蚕糸技術センターの成果発表会が開催され、暑さに強い群馬オリジナル蚕品種「なつこ」の実用飼育結果の発表がありましたので、概要を投稿します。

○令和2年度初秋蚕期繭品質評価成績                         令和2年度は5令期以降の猛暑により全体的に選除繭歩合が高く、県内で生産された繭格の平均は2Aと他の蚕期に比べ圧倒的に低かった。                    「なつこ」の飼育は、稚蚕時に飼育経過にばらつきが見られ、遅れ蚕が1~2割程度発生した。バラツキにより仕上がり頭数が少なく、収繭量が伸びなかった。         「なつこ」の暑さに強いという特徴は、選除繭歩合の低さから確認出来たものの生糸量歩合が低く、農家の収益は伸びなかった。

○令和3年度初秋蚕期繭品質評価成績                         令和3年度の初秋蚕期は、人工飼料接触性の観点から「日母」の交雑種を使用した。    稚蚕飼育時の経過のバラツキもなく、遅れ蚕の発生も少なかった。           繭品質評価の成績も、群馬県より猛暑日の少なかった県外の「錦秋鐘和」と同等の成績だった。
○実用蚕品種には、蚕種製造、蚕の飼育、製糸 すべての工程においてバランスの良さが求められる。「なつこ」は、「中母」の人工飼料接触性が若干悪く、生糸量歩合も「錦秋鐘和」より低いため、さらなる品種改良が必要と考えている。

○「なつこ」の生糸の評価について                         碓氷製糸株式会社では、「なつこ」の生糸の特性を明らかにするため、織物産地に評価依頼した。その結果として、                             (1)普通蚕品種(春嶺鐘月や錦秋鐘和)に比べ、明らかに抱合が強く、繊度ムラや細だれが無く、絹撚糸生産段階での作業がスムーズで、合糸性の高い高品質な絹撚糸を生産することができた。                                   (2)「なつこ」の絹撚糸を使い、帯地の開発を行った結果、一部満足のできる風合い(バルキー性高く、シャリ感のある織物)の織物が完成した。


2022年2月9日水曜日

遺伝子組換えカイコについて(4)

 これまで、①遺伝子組換えカイコの作り方 ②遺伝子組換えカイコで何ができるのか ③遺伝子組換えカイコとカルタヘナ法について 掲載してきました。            では、産業利用のために遺伝子組換えカイコを飼育する場合、飼育形態や飼育場所、カルタヘナ法の区分はどうなるのか、まとめてみました。


群馬県では、稚蚕共同飼育所の施設を利用して、カルタヘナ法二種使用、全令人工飼料育で、ヒトコラーゲンなどの有用物質生産が行われています。              また、高機能シルク(高染色性シルク、緑色蛍光シルクなど)生産については、養蚕農家で、カルタヘナ法一種使用、壮蚕は桑育で飼育が行われています。           なお、産業利用の遺伝子組換えカイコの飼育はすべて契約生産となっています。     これ以外にも、企業においては医薬品の原料となる抗体はじめとする有用物質生産の研究・開発が行われていると推察します。


2022年2月1日火曜日

緒糸(キビソ)とは

緒糸(キビソ)とは、繭から糸口を見つけるために、繭の表面からもつれた状態で引きだした糸のことです。                                   碓氷製糸では、太めの第一緒糸と細めの第二緒糸を作っています。            緒糸には40%ものセリシンが含まれており、健康タオルなどには最適な素材です。 また、魅力的な形状を持つことから、壁紙などにも使われています。

【第一緒糸】第一緒糸は、もつれた状態で引き出された繭糸を大枠に巻き取った糸です。太さは約3000デニールです。     

【第二緒糸】索緒機に形成枠を取り付け、これに繭糸を巻き付け、一本の糸を網状に集約します。この網状生糸に、さらに繭糸を絡めて(カバーリングして)、小枠に巻き取ります。第二緒糸は索緒器で作られるカバーリングされた網状生糸です。太さは約1000デニールです。

では、緒糸の製造工程を動画でご覧ください。

2022年1月13日木曜日

遺伝子組換えカイコについて(3)

 【遺伝子組換えカイコの作り方】                          遺伝子組換えとは、その生物(蚕)が持っていない外来遺伝子を組み込むことです。そのメリットは、従来の品種改良より短期間で大幅に改良出来ることです。

遺伝子組換えカイコの作成方法は、                        (1)蚕の卵に外来遺伝子のDNA溶液を注射します。                (2)孵化した幼虫を飼育し、成虫同士を交配させ卵を採ります。          (3)卵や幼虫、成虫の中から遺伝子組換えカイコを見つけます。              こうして作られた遺伝子組換え蚕は、外来遺伝子が染色体に組み込まれるため、継代により安定的に得ることができます。

【遺伝子組換えカイコで何ができるのか?】                    (1)医薬品・医療用素材の開発                           遺伝子組換えカイコが実用化されているものとしては、病気の診断等に使用される診断キットがあります。これは、診断キットに必要なタンパク質成分をセリシン層に作らせ、抽出・精製し、診断キットの製造に使われています。                    また、ヒト型コラーゲンも同様に製造され、化粧品に利用されています。                           
(2)新素材の開発                                 ①蛍光色を発する繭・生糸                             クラゲやサンゴの蛍光タンパク質を繭糸のフィブロインに作らせることで、緑色、赤色、オレンジ色などの蛍光を発する生糸です。                       ②クモ糸シルクの開発                               クモ糸の特性を付加したシルクは、従来のシルクに比べよく伸びて切れにくい性質を持っていると言われています。また、強度も通常のシルクより強くなっています。実用化を目指して研究が進んでいます。                              ③高染色性超極細シルク                              極細繊度蚕品種「はくぎん」をもちいてアミノ酸配列を改変した遺伝子組換え系統は、「はくぎん」よりさらに細く、染色性が良いため、発色が良く美しい光沢があります。


このほかにも、創傷保護材としての高機能フィブロインフィルムの研究開発や、遺伝子組換えバキュロウイルスの利用が進んでいます。