2023年7月28日金曜日

赤城の座繰り糸 Part3

「赤城の座繰り糸」の繰糸について、ビデオで紹介していきたいと思います。(なお、このビデオは2011年に撮影したものです)

(1)原料繭について                             原料繭は繭糸商が供給しています。繭糸商は座繰り糸の品質及び繰糸者の力量に応じて繭のブレンド割合を変えています。ビデオで繰糸している糸の原料は、上繭50%、玉繭20%、中繭30%でした。

(2)煮繭について                              鍋煮繭です。1回の煮繭量は400g、煮繭時間はおよそ30分でした。

(3)繰糸について                              繰糸器は上州座繰り器です。繰糸中のお湯の温度は75℃~80℃で、糸口が出ないときは高めの温度で繰糸しています。400gの繭の繰糸時間はおよそ1時間で、生糸量歩合は48%でした。

(4)その他                                 1日当たりの繰糸回数は3回、繰糸量は500g~600gですが、若いときは1日5回で1000gくらい挽いたとのことです。

ビデオを撮影した2011年頃、「赤城の座繰り糸」を挽くおばあちゃんは10名以上いました。4名の方の繰糸を見せていただきましたが、煮繭、繰糸、揚げ返しなどそれぞれ特徴があり、節糸が得意なおばあちゃん、節が少なくきれいな糸が得意なおばあちゃん、「赤城の黒糸」が得意なおばあちゃんなど、個性的な糸を作っていました。        繭糸商のご尽力により「赤城の座繰り糸」の基本技術は若い後継者に引き継がれ、今も「赤城の座繰り糸」は生産され続けています。

2023年7月17日月曜日

赤城の座繰り糸 Part2

「糸は黒いが味は良い」と言われる赤城の座繰り糸は、空気を含み、弾力ある生糸と言われています。                              今回のブログでは、各種生糸の断面写真を見ながら、その理由について紹介していきたいと思います。                                          なお、生糸の断面写真については、岡谷蚕糸博物館の高林博士に撮影していただきました。

 (1)赤城の座繰り糸                              赤城の座繰り糸の原料は上繭、玉繭、外部汚染繭、内部汚染繭などで、鐵鍋で繭を煮て上州座繰り器で繰糸しています。                         赤城の座繰り糸の断面写真を見るとたくさんの空気層が存在します。空気層ができるのは、繭の種類の違いにより繭糸の張力が異なること、上州座繰り器は手回しのため、繰糸速度の変化によるものと思われます。この空気層により、嵩高や弾力が生まれます。



(2)上繭を使った座繰り糸                          一部の工房や作家さん達は、座繰り器を使って細い生糸から太い生糸まで、とてもきれいな生糸を挽いています。使用する原料繭は上繭が多いと思います。             上繭を原料とした座繰り糸の断面写真を見ると、赤城の座繰り糸に比べ空気層が少ないことがわかります。これは、解じょが良く、繰糸張力が一定なため、空気層が出来にくいものと思われます。                                    座繰り糸は毛羽立ちやすいため、軽く撚りを掛けたり、カバーリングが行われていますが、カバーリングした生糸の断面写真については下段のとおりです。


(3)自動繰糸機で繰糸した生糸                        碓氷製糸では上繭を原料にして14中~110中くらいまでの多種類の生糸を製造しています。生糸製造に当たっては、繊度ムラ少なく、節が少ないこと。座繰り生糸とは異なり抱合の良い生糸が求められます。                            上繭を原料に自動繰糸機で繰糸した生糸の断面写真を見ると、空気層はほとんどなく、繭糸と繭糸が密着しています。空気層が入るようだと「抱合の悪い生糸」として機屋さんからクレームが来ます。                            また1個の繭からは1300m位の糸がとれますが、最初と最後では繭糸の太さが異なります。この写真から繭糸の太さの違いがおわかりいただけると思います。


(4)太繊度低張力糸                             太繊度低張力糸は、低張力繰糸により繭糸のちぢれが残り、嵩高、伸縮性が高く、繭糸を絡み合わせることにより糸の強さが増し、セリシンが持つ吸湿、保湿の機能を活かした生糸です。                                 太繊度低張力糸の繊度は、500中~1200中くらいで、上繭+選除繭を原料として繰糸しています。                                 生糸の断面図を見ると、この生糸には多くの空気層があり、嵩高、伸縮性の高い生糸であることがわかります。そのため、使い方によっては、毛羽立ちが多くなります。  また、扁平糸であることから、独特の光沢を発しています。




2023年7月13日木曜日

赤城の座繰り糸

 群馬県は昔から養蚕が盛んで、赤城山の広い裾野及び周辺地域には緑豊かな桑畑と多くの養蚕農家があり、とれた繭を鉄鍋で煮て上州座繰り器で糸を挽きだし、伊勢崎や桐生の織物の原料として供給してきました。

この糸は、玉繭や中繭(外部汚染繭、内部汚染繭、出殻繭など)を原料に挽いており、赤城の節糸、赤城のぼろ糸、赤城の黒糸などと揶揄されてきましたが、空気を含み、弾力があり、軽いこの座繰り糸は、「糸は黒いが味が良い」などといわれ、染織作家を中心に高い評価を得ています。

かつては数千人の挽き手がいたと言われていますが、現在は繭糸商の石田さんが養成した若い挽き手のみとなってしまいました。

赤城の座繰り生糸が、国や県から補助金をもらうこともなく、奇跡的に残っているのは、この地域が養蚕が盛んだったことと、座繰り糸を専門に扱う繭糸商の存在が大きいと思います。

繭糸商は、目的とする赤城の座繰り生糸を作るため、挽き手の技術に応じたブレンド繭をおばあちゃん達に預け、糸にしてもらい、加工賃を支払い(いわゆる賃挽き)、産地や作家に販売してきました。

ほそぼそと引き継がれてきた赤城の座繰り製糸の技について、これから数回にわたって紹介していきたいと思います。