2020年6月30日火曜日

お蚕さまの品種(1)小石丸

 日本には、たくさんの遺伝資源があります。600種類とか800種類とか。農家でもたくさんの品種(交雑種)が飼育されており、群馬県だけ見ても、春嶺鐘月、錦秋鐘和、ぐんま200、ぐんま細、ぐんま黄金、新小石丸、松岡姫、なつこ、それに原種の小石丸も飼育されています。
 
 蚕品種に対しては蚕糸関係者みんなが関心を持っています、蚕種業者は産卵量が気になるでしょうし、養蚕農家は病気に強く大きな繭を作る蚕品種を望んでいます。製糸業者は解じょが良く生糸量歩合の高い品種を希望し、絹業者は、繊度ムラや節が少ない生糸や特徴ある生糸を求めています。
 
 そこで、日本の蚕品種について少し調べてみたいと思います。
 第1回目はロイヤルシルクといわれ、皇居御養蚕所で飼育されている「小石丸」についてです。
 平塚英吉先生が1969年に著した「日本蚕品種実用系譜」によれば、小石丸は長野県小田中源右衛門が寛政の初年(1790年頃)に中如来種から特別良種を発見したもので、虫質強健、眠起斉一、繭形やや小なるも光沢優美、解じょ良なる良種である。小田中源五郎によれば、小石丸は長い星霜を重ねる間に繭型の変移があった。発見当時は短小なりしも天保年間に至りやや豊艶に進み枡粒約450となり、明治の初年は約370、明治20~30年には300内外、明治末頃には270となった。この間に虫性は変化無く、殊に病感の憂なく、食桑少なく結繭多量であって卓越せる品種であるという。
 小石丸の由来については種々の説があるようですが、小田中源右衛門育成説が多くの支持を得ているようです。
 いずれにしても古い選出の歴史を持っており、寛政文化の頃すでに相当の人気があり、天保から嘉永にかけて盛んに用いられ、その後明治時代にわたり長く愛用されたことは、実用性の高い品種であったことを示しています。
 
 皇居紅葉山御養蚕所で飼育されている小石丸については、明治38年皇太子妃殿下(貞明皇后)が当時の東京蚕業講習所(現在の東京農工大学)に行啓され、養蚕や製糸を視察されました。その折、当時最も優秀な蚕品種とされていた「小石丸」の献上を受けられたものです。
 
 碓氷製糸でも、京都の工房からの委託を受け、小石丸の繭と生糸の生産を行っています。
小石丸の繭の単繭重は約1.2g(交雑種は約2g)くらいと小さく、生糸量歩合も約8%(交雑種は約19%)と少なく、極めて貴重な繭と生糸です。
 貴重な繭を生糸に加工する製糸工程も、高品質な小石丸生糸を作るために、1人3緒(自動繰糸機の場合は1人60緒)を担当し、低速で繰糸されています。

上から、小石丸、新小石丸、ぐんま200の繭です。小石丸は日本種特有の俵型をしています。

小石丸の繰糸。1人3緒を受け持ち、低速繰糸しています。

2020年6月18日木曜日

繭の乾燥と貯繭

 農家で生産された繭は、営繭をはじめてから2週間くらいで蛾が出てしまうため、製糸工場に運ばれた繭は直ちに乾燥されます。
 明治5年に設立された官営富岡製糸場では、蒸気で蛹を殺し、天日や風で繭を乾燥させたそうですが、現在は熱風式バンド型乾燥機(多段)を使って繭を乾燥しています。
 乾燥機は、8室に分かれており、最初の部屋は110℃、最後の部屋は60℃の熱風で、約6時間かけて繭を乾燥します。
その後計量され、ベルトコンベアで繭倉庫(蜂の巣倉庫)に運ばれます。碓氷製糸では、蚕品種別、産地別に保管し、高品質で多様な生糸生産を行っています。
また、生挽きの場合には、冷凍庫に繭を保管し、発蛾を抑え、繰糸を行います。
繭の乾燥から貯繭までの工程は次のとおりです。
1 製糸工場に運ばれた繭は、トラックスケールで計量され、出荷伝票と照合します。
2 選除繭歩合、生糸量歩合、解じょ率などの繭の品質を評価するため、サンプルを採取します。
3 繭乾燥機に投入され、長期間貯蔵できるように繭乾燥を行います。農家が出荷する繭を「生繭(なままゆ)」、乾燥した繭を「乾繭(かんけん)」といいます。
4 乾燥が終わった繭は、繭倉庫(蜂の巣倉庫)に保管されます。蜂の巣倉庫は、建物内が蜂の巣のように小部屋に分かれており、蚕品種、蚕期、産地別に繭を保管します。 
 では、繭出荷から乾繭の貯蔵までの工程を動画でご覧ください。
 

ぐんま細の繭出荷

 6月17日(水)ぐんま細の繭が約400kg出荷されました。
出荷された繭からサンプルを取り、繭調査を行ったところ、500g粒数は298粒(単繭重1.68g)、うち選除繭としては、玉繭1粒、薄皮繭2粒、極小繭8粒です。井上さんには最高の繭を生産していただきました。ありがとうございました。
※極小繭は、2粒接緒になりやすく繊度ムラの原因になるので、選除繭の一種です。
 500g粒数:298粒は繭がチョット小さく感じるが、繭糸繊度を細くするためにはちょうど良い繭の大きさです。

 碓氷製糸では、昨年度ぐんま細の生糸を試作し、その生糸の評価をいただくため、オーガンジー、刺繍糸、沖縄、京都、東京の工芸家、丹後ちりめん等の関係者に生糸サンプルを提供してきました。
このたび、丹後ちりめんを製織する会社及び東京の染色会社から、次のような評価をいただきましたので、紹介させていただきます。
1 繊度ムラについてはややあると思う。その理由は整経の段階で急に細くなるのをたまに感じた。
2 節は少ない。 撚糸の段階で生糸が切れないので節は少ない。整経、製織の段階でも節は少なく、すべての段階で仕事がやりやすい。
3 練減率についてはあまり変わらない。
4 染色性は良い。 型染め時に反物の耳が厚くならないので型送りがしやすい。
5 その他  ぐんま細は、普通の織物よりかなり柔らかくしなやかさがあり、風合いの良い生地に仕上がった。柔らかいということは、しわ回復性が良いのではないかと思う。また、製織時に白い粉(セリシン)が出にくい。
 ※丹後の機屋さんから、「整形の段階で急に細くなるのをたまに感じた」との評価をいただきましたので、本年産の生糸についてはその様なことのないよう原因と対策を検討中です。

自動収繭毛羽取機マユクリンで毛羽取り
出荷を待つぐんま細の繭
製糸工場に出荷されたぐんま細の繭


ぐんま細の繭と生糸

2020年6月17日水曜日

春蚕の収繭作業

安中市の井上豊さんの収繭作業を取材しました。
井上養蚕所の2階は上蔟室になっており、回転蔟約200回転が天井からぶら下がっていました。
上蔟後9日目から収繭作業が始まり、上蔟後11日目に繭出荷となります。
(蚕が蛹にならないうちに蔟を動かすと、蚕が頭をぶつけて死んでしまうため、あまり早い作業は厳禁)
収繭作業の手順は次のとおりです。
1 吊ってある回転蔟を下ろし、ボール蔟をはずします。
2 ボール蔟をよく見て、玉繭、汚れている繭、薄皮繭、死にごもりなどの悪い繭を取り除きます。
3 自動収繭毛羽取機マユクリンで繭の毛羽を取り除きます。
4 繭がよく乾くように、蚕座紙の上にうすく繭を拡げます。
5 出荷当日は、自前の選繭台でさらに繭の選繭を行います。

 生糸品質は、原料繭8割、工務技術2割と言われています。そのためにも、出荷前の選繭作業(悪い繭を取り除く作業)は特に大切です。
 収繭作業の様子は動画をご覧ください。選除繭の種類は写真のとおりです。

  

2020年6月9日火曜日

春蚕の上蔟作業

 安中市の井上豊さんの上蔟作業を取材しました。 飼育数量は24万頭、蚕品種は群馬県蚕糸技術センターが育成した細繊度蚕品種の「ぐんま細」です。 5月30日の朝に5令の桑付けだったので、5令の経過日数はまる8日で上蔟となりました。 農家により上蔟作業方法は異なりますが、井上さんの方法は次のとおりです。 1 上蔟の半日前(昨日の夕桑前)に網をかけ給桑します。 2 7日の朝早く桑をくれ、蚕には十分食べさせてから上蔟作業を始めます。 3 網の上に蚕をはたきます。 4 はたいた蚕を集め、2階の上蔟室へ運びます。 5 蚕座紙の上に拡げ網をかけます。(桑葉やゴミと蚕を分けるため) 6 網の上に上がった蚕を集め、回転蔟に振り込みます。 一枚のボール蔟への振り込み頭数は約120頭です。 7 約半日経過したら、回転蔟を吊り下げます。  井上さんの上蔟には、自動条払い機を使っていません。蚕がケガをするのがかわいそうで、使わないそうです。 
蚕の飼育上の留意点ですが、4令は健康に育つよう防疫管理、温湿度管理に留意し、5令は大きな繭を作るよう十分に桑を与え、上蔟後は解じょ(繭糸のほぐれ具合)のよい繭を作るよう温湿度管理を徹底することが大切です。
 ところで、井上さんのおじいさん(井上久良雄さん)がすごい人なんです。 昭和57年には年7回蚕を飼育し、7002kgの繭を生産。農林水産祭で天皇杯を受賞した方です。 今も養蚕時期には桑くれを手伝っています。

2020年6月4日木曜日

春蚕 5令盛食期

 安中市の井上豊さんの養蚕状況を取材しました。今日は5令6日目で、 桑取り、桑くれと最も忙しい時期です。 5令の給桑回数は3回+補給、桑とりは約1200kg(面積にして桑園10a)くらいです。 1923年生まれのおじいさんも一所懸命お手伝いをしています。
さて、5令飼育の留意点はつぎのとおりです。
①5令期に入ると、蚕座面積も広くなり、給桑量も多くなるので、工夫しながら 作業の省力化に努める。 ②5令期の適温は22℃~24℃。でも5令期は20℃を下回っても飼育経過は伸びるが 繭生産にはあまり影響しない。 ③蚕座面積としては、0.1㎡当たり120頭くらいの飼育密度が望ましい。 ④この時期の食桑量は繭の大きさに影響するので、桑不足にならないようにする。 ⑤「5令は風で飼え」というくらいなので、飼育室の通風換気を図ること。
新型コロナウイルスの影響で、シルク産業は大変厳しい状況ですが、養蚕農家は 良い繭を生産するために、蚕のウイルスにも、人間のコロナウイルスにも負けず に頑張っています。 皆さんの応援よろしくお願いします。