2021年12月20日月曜日

塩蔵繭から生産された生糸の特性について

1 繭の保存方法について                              碓氷製糸株式会社では、お客さまのニーズに応じて①生 ②乾燥 ③塩蔵で繭を保存し、生糸生産を行っています。今日は塩蔵の処理方法と塩蔵繭から生産された生糸の特性について報告します。

2 塩蔵処理について                                             ①用意するものは、繭、天然海水塩、100㍑のポリバケツ、ビニール袋、木綿の布、輪ゴム   または紐、泥粘土                                   ②100㍑のポリバケツの中にビニール袋を入れ、袋の底に晒木綿の布を敷きます。        ③この上に繭を乗せ、天然の海水塩を振り巻きます。                  ④布+繭+塩の順番で8層くらいに積み重ねます。                      ⑤中の空気をよく抜いて輪ゴムまたは紐で縛り、泥粘土で密閉し、窒息させ殺蛹しま  す。                                       ⑥7~10日後にポリバケツから繭を取り出し、風乾します。

3 保存状況                                        7~10日後に繭をポリバケツから出してみると、水分が繭の外へ少ししみ出てていますが、繭からの発蛾も繭の汚れもなく、振りまいた塩が湿っており、高い吸湿効果が見られました。塩蔵は密閉することで殺蛹し、塩は湿度調整のために有効です。なお塩蔵処理に当たっては塩の量により生糸品質に差が出るといわれています。

4 生糸の特性について                              ①生繭、塩蔵繭から繰製された生糸は、乾繭などに比べ極めて白度が高い。       ②小石丸の塩蔵では、解じょが良好で生糸の強力伸度が優位に出る。一般品種におい   ても解除は良い。                                 ③水蒸気処理の生糸は、強力が高くやや硬直な感触で光沢が悪い。           ④塩蔵繭から繰製された生糸は、伸度、強力、ヤング率ともに高い(下の表のとおり)。 

日本シルク学会誌第15巻より

ポリバケツに繭を入れ天然海水塩を振りかけます

塩を振りかけた後、木綿の布を繭の上に敷きます

泥粘土でフタをします
7日~9日後に取りだし、風乾します

2021年12月7日火曜日

遺伝子組換えカイコについて(2)

 遺伝子組換えカイコの2回目は、カルタヘナ法についてです。

カルタヘナ法の正式名称は、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」で、遺伝子組換え生物の安全性確保を図るための法律です。実験室など外界と隔離され、拡散防止措置が施された施設内で使用する「第二種使用等」と、屋外など外界と隔離しないところで利用する「第一種使用等」があります。


群馬県蚕糸技術センターでは、主務大臣の承認を受けた第二種使用の蚕室で「蚕種製造」や「稚蚕飼育」を行い、前橋遺伝子組換えカイコ飼育組合は、稚蚕共同飼育所を第二種仕様に改造、承認を受け、コラーゲンなどの有用タンパク質生産を行っています。 県内2戸の養蚕農家は、蚕の飼育室を第一種使用に改造、承認を受け、緑色蛍光シルクや高染色性・極細シルクの繭生産を行っています。

遺伝子組換えカイコについて(1)

 GMカイコすなわち「遺伝子組換えカイコ」とは、遺伝子の組換え技術により、カイコに他の生物の遺伝子を組み込んだカイコのことを言います。

カイコは家畜化された昆虫で、「逃げない、飛べない、人間に危害を加えない」等の特性を持っています。また、カイコは、繭糸の成分の97%はタンパク質で、約1ヶ月という短期間に大量のタンパク質を合成する力を持っています。

遺伝子組換えカイコは、平成12年当時の蚕糸・昆虫農業技術研究所で、世界で初めて作出することに成功しました。世界最高の遺伝資源や研究蓄積を持つ日本ならではの大きな研究成果です。

遺伝子組換え研究の目指すところは、日本が得意とするカイコの研究蓄積を活かし、世界に先駆けた有用物質生産や高機能シルクの研究開発により、養蚕農家の所得向上と地域の新たな産業振興や雇用創出に貢献出来る「蚕業革命」を起こすことです。

具体的な事例として、オワンクラゲの遺伝子を組み込んだ緑色蛍光シルク、高染色性極細シルク、クモの遺伝子を組み込んだくも糸シルク、再生医療用の細胞接着シルクなどがあり、緑色蛍光シルクについては平成29年から、高染色性極細シルクについては令和3年から群馬県内の養蚕農家で大量飼育が始まりました。

カイコを使った有用物質生産としては、コラーゲンなどの化粧品素材、検査薬や診断薬、さらには医薬品等の有用物質を生産する研究が進められており、その成果として平成22年度から検査役用のタンパク質生産、平成28年度からは化粧品用のコラーゲンを生産する遺伝子組換えカイコの実用飼育が稚蚕共同飼育所の施設を使って行われています。

これらの取り組みを一層推進するため、令和元年9月17日には、国レベルで「シルクビジネス協議会」が立ち上がり、用途開発について検討されています。

これから、数回にわたり「遺伝子組換えカイコ」について紹介していきます。