2020年7月28日火曜日

お蚕さまの品種(4)上州絹星

 群馬オリジナル蚕品種「上州絹星」は、在来種の「又昔」に、「あけぼの」の血をひく「二(群馬県蚕業試験場育成)」を交配した日中一代交雑種です。平成19年2月の「ぐんまシルク」認定委員会において「上州絹星(じょうしゅうけんぼし)」として認定されました。
○上州絹星の特性
 蚕児の発育は斉一で、虫質も強健で飼育しやすいのですが、普通蚕品種に比べ飼育経過は短く、特に5令期は2日ほど早まり、収繭量は2割程度少なくなります。
 中細繭繊度(2.4~2.6デニール)の蚕品種で、織物の強伸度、摩擦抵抗性及び防しわ性にも優れた特性を有しています。
○蛍光黄変色素及び精錬抵抗性セリシンの含有
 上州絹星の生糸には蛍光黄変色素が含まれています。また、生糸セリシン2層部には溶けにくいセリシンを含んでいます。これらの存在が染色性に優れ、強伸度、摩擦抵抗性、防しわ性に効果がある要因と思います。
飼育経過は、普通品種に比べ1~3令で1日半程度短く、4~5令も2日程度短い。
化蛹歩合は高く、虫質は強健。


繭形は浅いくびれのあるやや長楕円形で、繭色は淡い緑黄色が混ざる。
繭重(約1.6g)、繭層歩合(約19.6%)は、一般蚕品種に比べ2割程度低い。
生糸量歩合は17%程度で、一般案品種より低い。繭糸繊度は中細で2.4d~2.6d程度

上州絹星の生糸は、全セリシン量が少なく、フィブロインの割合が高い。
セリシンの性状として、精練剤に溶けがたいセリシンを含んでいる。
これらが染色性、摩擦抵抗性、防しわ性に効果のある要因となっている。

2020年7月13日月曜日

お蚕さまの品種(3)又昔

 日本蚕品種実用系譜によれば、又昔は福島県伊達の蚕種家伊藤彦治郎が元文寛保の頃(1740年頃)育成した小巣の品種で始め「マタムカシ」、「又むかし」と称し明治以後「又昔」と記されるようになった。
 ※外山亀太郎博士は、又昔は伊達地方に往古より飼育されたいた普通の赤塾系のものから”繭は長楕円形で中央の縊れ甚だ少なく両端少しく突出した観がある小巣系”を選出したものと推定している。
 又昔は育成された元文寛保の頃(1740年頃)から、特に明和前後(1770年頃)から世に知られ、製糸原料に好適するものとして広く養蚕地方に普及し、文化文政の頃(1820年頃)にはその需要は他品種に遙かにまさるようになった。明治時代に入ってからは、青白流行期(明治15年頃まで)、赤塾流行期(明治20年頃全盛)には又昔の実際の需要は少なかったが、明治20年頃から小巣白繭種の流行時代となってからは、小石丸とともに各地に広まるようになった。小巣白繭流行の初期には小石丸が全盛を極めたが、小石丸が「縊目の深い繭は解じょ不良で節が多い」との非難を受けたため、小石丸は明治32年頃から急に需要が減退するようになった。又昔はこの頃から需要が一層多くなり大正初期に至るまで各方面に愛用された。

 つい最近、又昔の繭、生糸生産が群馬で行われた。
前橋の人形製作工房から、「昔の人形の御衣装を復元したいので、又昔の生糸を作ってもらえないか」との依頼により、平成15年関係者連携して又昔の飼育、生糸生産に取り組んだ。飼育方法は稚蚕も壮蚕も桑育、上蔟は一頭拾い、蔟は万年蔟を使用した。できた繭は俵型、繭重は1.5g前後だった。その繭を上州座繰り器及び一緒の検定器で繰糸を行った。生産された生糸の評価は「生糸は銀色に輝き、染め上がり良く、生地は柔らかくコシがある」とのこと。誠実に、精巧に、そして美しく作り上げる日本のものづくりの原点を体験することができた。

2020年7月6日月曜日

お蚕さまの品種(2)小石丸由来の品種

小石丸由来の蚕品種としては、新小石丸、改良小石丸、玉小石の3種類があります。
【新小石丸】
 平成8年群馬県蚕業試験場(現群馬県蚕糸技術センター)が育成した蚕品種です。絹業者から「小石丸を製品化出来ないか」との要望を受け、小石丸の性状をそのままに、自動繰糸機にも対応出来る品種として育成しました。これは、在来種の小石丸と群馬県が育成した世・紀×二・一の「二・一」を交配した品種で、繭は俵型をしており、春蚕期の繭糸繊度は2.5d内外、繭糸長930m内外、生糸量歩合は15~16%と少なめですが、光沢のある優良生糸が得られ、生糸は太さにムラがなく、高級和装用として使われています。

【改良小石丸】
 平成15年に大日本蚕糸会蚕業技術研究所で育成された蚕品種です。蚕業技術研究所では小石丸の選抜育種を行い、これを「TKO系統」として維持しています。このTKO系統に研究所が保有している繭糸が細い中国種系統の「TC54」を交配し、量的形質を向上させた蚕品種「TKO×TC54」を育成しました。これを栃木県が採用し、「改良小石丸」と名付けています。繭はくびれの浅い俵型で、生糸量歩合約15%、春蚕の繭糸繊度2.4d内外、繭糸長960m内外で、選繭の徹底、低速繰糸により蚕品種の特長を活かした生糸を生産しています。

【玉小石】
 国内には玉糸を使った伝統的な織物がありますが、国内繭生産量の減少により玉繭(2頭以上の蚕が作った1個の繭)の入手が難しくなりました。蚕業技術研究所では平成16年玉繭を作る新たな品種の育成に着手しました。玉繭品種の育成にあたっては、糸質が優れていて、ブランド力があることから「小石丸」による育成を行いました。まず小石丸から玉繭を作りやすい系統を選抜します(A系統)。糸量を増やす目的で他の品種を交配させ、小石丸を戻し交配します(B系統)。このA系統とB系統を交配した品種が「玉小石」です。玉繭を作らせるために上蔟には万年蔟を用います。ちなみに玉小石の玉繭産率は35%内外です。

小石丸と新小石丸の比較
シルクレポート28号より転載