2020年8月17日月曜日

お蚕さまの品種(6)ぐんま200

  群馬オリジナル蚕品種「ぐんま×200」は、蚕は丈夫で飼育しやすく、生糸の白度が高いので、養蚕農家さんからも機屋さんからも好評を得ています。

 「ぐんま×200」は、平成6年3月に春蚕用蚕品種として指定を受け、平成8年3月には夏秋蚕用蚕品種として指定を受けて年間を通じて飼育出来る通年用蚕品種です。この蚕品種は、今後の蚕糸業の発展に大きく寄与することを願うとともに、県民が200万人に達したことを記念して「ぐんま×200」と命名されました。「ぐんま×200」は、春蚕、夏蚕、晩秋蚕、晩晩秋蚕に飼育され、群馬県の年間飼育数量の4割以上を占めています。

 「ぐんま×200」は、日中一代交雑二化性の白繭種で、桑にも人工飼料にも適し、眠起はよく揃い飼育しやすい品種です。幼虫の体色は青系で斑紋は形、繭のちぢらは普通です。

 生繭繰糸にも適し、生産された生糸の白度は高く、繭糸繊度は、春蚕期が3.0デニール内外、夏秋蚕期が2.7デニール内外。繭糸長は、春蚕期が1400m内外、夏秋蚕期が1200m内外となっています。

 平成20年度群馬県蚕糸技術センターが群馬県繊維工業試験場の協力を得て「群馬オリジナル蚕品種の生糸と外国産生糸の性状比較」を行ったところ、①生糸の練減率と伸度は、国産糸、中国糸、ブラジル糸の間に大きな差は無かった。②生糸の破断強度は一般的に強い生糸の目安とされる4.0gf/Dを上回り、「ぐんま黄金」と「上州絹星」が特に高かった。③白度はどの品種も同程度だが「ぐんま200」が高かった。

このように、「ぐんま200」の白度については、試験研究機関の調査により証明されています。

白度試験成績でわかるように、白度の高さが「ぐんま200」の最大の特徴

 

「ぐんま200」の繭と生糸
繭の形は楕円形で、解じょの良さがこの品種の特徴

 





2020年8月11日火曜日

一代雑種とは

 養蚕の発展を支えた技術革新としては、蚕当計、一代雑種、人工孵化、人工飼料、遺伝子組換え蚕などが上げられるが、繭生産に最も貢献した技術は外山亀太郎博士が1906年(明治39年)に提唱した「一代雑種」の利用だと思う。
 生物は、近親交配を続けると弱くなっていくが、遠縁の系統同士を交配すると、その子の一代だけは生育旺盛で揃いも良く多収になる。この現象をヘテロシス(雑種強勢)という。一代雑種の主な特徴は①産卵数が増える ②孵化や眠起が斉一で幼虫の経過が短くなる ③病気や不良環境にも強くなり飼育が容易 ④繭重、繭層量が多くなる ⑤繭糸繊度が太くなり繭糸長も長くなる などである。
 トウモロコシでは一代雑種の利用は知られているいるが、植物の一代雑種の第一号は1926年に埼玉県農業試験場で作出されたナスと聞いている。
 さて、養蚕農家が飼育している蚕品種は、雑種強勢を利用するために交雑種が使われており、その卵を「普通蚕種」という。この普通蚕種の製造に用いる蚕種を「原蚕種」という。
 二つの品種間の交雑で、最も強く雑種強勢が現れるのは一代雑種(単交雑)で、虫質強健で均一な繭が生産される。しかし、この単交雑の欠点は、普通蚕種を作るために飼育される蚕(原蚕)が弱く、産卵数が少ないことである。単交雑の欠点を補うために考え出されたのが四元交雑で、現在広く利用されている。
交雑形式を図示すると次のとおり。

 
 

2020年8月4日火曜日

お蚕さまの品種(5)世・紀×二・一

 世・紀×二・一(せいきにいち)は、群馬県蚕業試験場が13カ年かけて育成した日中四元交雑の二化性品種で、平成3年に中細繊度の特徴ある蚕品種として品種指定された。
【育成の背景】
 当時、和装絹織物の一層の高級化を図るため、繭糸繊度が従来の和装用より細い中細繊度で、しかも繭糸繊度偏差の少ない繭が要望されていた。育成にあたっては、一般普及品種と比較して、農家や製糸の生産性の劣らないことを目標とした。
【性 状】
 全国7カ所の試験研究機関で行われた蚕品種性状調査の結果を見ると、対照品種に比べ5令の飼育日数がやや長く、化蛹歩合は96.5%と高く、繭糸繊度は2.6デニールと細く、繭糸長は1500m以上と長かった。

【繊度曲線】

「世・紀×二・一」と一般蚕品種の繭糸繊度曲線を比較すると、「世・紀×二・一」では最外層から200m付近のピークが認められず、最内層まで穏やかな曲線を描き、細くなっている。また、「世・紀×二・一」は、最も細い最内層部の繊度は一般蚕品種と大差なく、繊度偏差は小さくなり、粒内繊度の変動係数は低くなった。

世・紀×二・一の繭と生糸
「世・紀×二・一」は、群馬県無形重要文化財保持者だった藍田正雄さんによって染色性の良さが認められた。「世・紀×二・一」の生糸には蛍光黄変色素が含まれていること、セリシン2層部には溶けにくいセリシンを含んでいることが、染色性につながっていると思われる。



生糸等の精錬について

 フィブロインを化粧品原料にする場合、生糸等を精錬(セリシンを取り除く)する必要があります。精錬する場合、素材によって次のような違いがあります。
【繭の精錬】
○繭を切って蛹をとりだし内部をきれいにするためには、機械装置は必要としないが多くの手間と時間がかかります。
○繭を精錬する場合、精練剤が繭層の中まで浸透しにくいので、最低でも2回精錬する必要があります。
【生糸の精練】
○生糸は、選繭、煮繭、繰糸の工程を経て製造されるので、ゴミや汚れがほとんどなく、とてもきれいな素材です。
○生糸は抱合(繭糸同士がしっかり固着している)がよいので、1回の精錬ではセリシンを除去仕切れない場合があります。
【シルクトウの精錬】
○シルクトウ(繭糸の束)は、絹紡糸の素材、シルク綿の素材として開発されました。
○シルクトウは、選繭、煮繭、繰糸の工程を経て製造されるので、ゴミや汚れはなく、とてもきれいな素材です。
○シルクトウは繭糸が束状になっているので、精練剤が浸透しやすく、1回の精錬で完全にセリシンを除去することができます。
碓氷製糸でも、注文に応じてシルクトウを製造しています。

シルクトウ繰糸機
繰解槽には約1500粒の煮繭が入っており、これを一度に挽きあげます
上の写真の巻取り機の枠周は1.5mです

精錬前のシルクトウ
精錬後のシルクトウです
繭糸が完全に分繊しています