2023年6月9日金曜日

お蚕の繭つくり

 お蚕は、蛹になる過程で繭を作ります。蚕が作る繭の色は、桑の葉の色素を取り込んだ場合には黄色やオレンジ色に、桑の葉の色素を取り込まない場合には白い繭となります。一本の繭糸の太さは約3デニール(人間の髪の毛の約1/10)で、1個の繭からは1,500mもの長さの糸をとることができます。繭の大きさ、繭糸の長さ、繭糸の太さは蚕品種により異なります。詳細については、2021年10月26日ブログを覧下さい。アドレスは次のとおりです。https://gunmasilk2005.blogspot.com/2021/10/blog-post.html

この繭糸のもととなる液状絹は、お蚕の体内にある絹糸腺で作られます。絹糸腺は前部糸腺、中部糸腺、後部糸腺に分かれており、後部糸腺で分泌されたフィブロインが中部糸腺に送られ、その周囲にセリシンが分泌され、前部糸腺を通って吐糸管からでて繭糸となります。

熟蚕は、最初の引っかかり場所を見つけるとそこを接着点とし、それから頭胸部を左右に動かしながら吐糸を続け繭を作り上げていきます。

吐糸の様子については下記の動画からご覧下さい。

2023年6月3日土曜日

春蚕の上蔟

 5月8日に掃立てた10万頭の「ぐんま細」と「ぐんま黄金」が、掃立から27日目の6月3日(土)に上蔟となりました。5令の食桑日数は7日と1桑です。

5,6年前に新規参入した若い養蚕農家ですが、多くの仲間と連携を図りつつ、積極的な桑園造成及び養蚕室や上蔟室の効率的な利用と各種の作業改善により年間繭生産量800kgを達成しています。

今回の春蚕も蚕の経過は非常に良く揃っており、熟蚕が約4割時点での上蔟となりました。適期上蔟で、病蚕もいないので、大きさの揃った優良繭が期待されます。

この養蚕農家の上蔟方法については次のとおりです。 ①上蔟前日の朝に上蔟ネットをかけ3回給桑を行う ②上蔟当日の朝、ネット上の条桑を取りのぞき蚕だけにする ③ネット上の蚕をコンテナに集める ④上蔟室に搬送する ⑤1回転蔟当たり5kg(1200頭)の蚕を計量する ⑥回転蔟に振り込む ⑦2~3時間後に回転蔟を吊す

「よい桑 よい繭 良い生糸」と言われるように、良い生糸を作るためには、蚕品種の特性を備え、大きさの揃った繭を生産する必要があります。そのためには、①病蚕が発生しないよう蚕室・蚕具の消毒を徹底する ②栄養価の高い桑を十分に与える ③蚕の経過を揃える ④熟蚕が3~5割発生した段階で上蔟する ⑤解じょのよい繭を生産するため、上蔟後は痛風換気を図る ⑥出荷前にていねいに選繭する(外部汚染繭、内部汚染繭、玉繭、穴あき繭などを取り除く) などを徹底する必要があります。

上蔟作業の動画は下記のとおりです。


2023年6月1日木曜日

5令盛食期

 5月26日に5令餉食の蚕は、本日(6月1日)5令7日目の盛食期となりました。大量の桑の収穫と給桑作業など養蚕農家は猫の手も借りたいほどの忙しさです。

「ぐんま細」を飼育しているA農家では、経過と大きさの揃った繭を生産するために、広めの蚕座面積で飼育し、20時間/日程度桑が食べられるよう4回給桑+補給を行っています。

蚕の飼育では細かな気遣いが繭品質に影響します。飼育温度が20℃以下にならないよう温度管理を行い、飼育密度が同じになるよう蚕を移動させたり、給桑ムラが無いよう補給したり、「壮蚕は風で飼え」を実践するため、ドア・窓の開閉や送風機の利用などにより気流を調整します。

5令盛食期の作業を簡単に紹介すると次のようになります。①AM5時給桑(朝桑)②AM7時 採桑(収穫量500kg) ③AM11給桑(昼桑) ④PM2採桑(収穫量400kg) ⑤PM5給桑(夕桑) ⑥PM10(夜桑) ※給桑のたびに蚕や桑のムラなおしを行います。

養蚕農家が寝る間も惜しんで生産した大切な繭。碓氷製糸株式会社では最高の技術と細心の注意をもって高品質生糸作りに努力しています。 

5令盛食期の採桑作業、給桑作業については、下記より動画をご覧下さい。


2023年5月20日土曜日

春蚕の配蚕

 令和5年5月18日 3令3日目の蚕が稚蚕共同飼育所から養蚕農家へ配蚕になりました。8品種の蚕を飼育しましたが、経過の良く揃っている蚕が配蚕となりました。

配蚕の手順については次のとおりです。 ①コンテナに入る大きさに蚕座面積を調整する。 ②蚕を傷つけないよう蚕座紙を折りたたんで、コンテナに入れる。③温度調整のできる自動車で搬送する。 輸送の限界時間については、3~4時間程度とされており、それ以上遠方に搬送する場合には、輸送試験が必要です。

配蚕された蚕の取り扱いについては次のとおりです。①25度くらいの温度に調整された飼育室に蚕を運び込む。②飼育密度を低くするため、2枚の蚕箔に分泊する(1枚の蚕箔で7,500頭飼育)。③蚕と人工飼料を分けるため、糸網を掛ける(人工飼料を早期に取り除くため)。④初めて与える桑なので、少し柔らかめの桑を大きめに刻んで与える。

群馬県が監修している飼育標準表には、温度、湿度、蚕座面積、給餌量(給桑量)、作業時間、作業内容などが事細かに記載されていますが、蚕の飼育技術は、蚕の経過を揃えるための技術と言っても過言ではないと思います。蚕の経過が揃っているということは ①飼育・上蔟作業が省力化される ②大きさの揃っている繭を生産することができる ③繭の大きさが同じなので、繭糸繊度のバラツキも少なく、高品質な生糸が生産出来る ということになります。

蚕の経過を揃える最大のポイントは、各令の餉食(桑付け)のタイミングです。
桑付けが早すぎれば経過が不揃いになるし、遅すぎれば体力が消耗します。稚蚕共同飼育所では、蚕の経過を丁寧に観察し、食欲のでた起蚕が98%位の状態で各令の餉食作業を行っています。

稚蚕共同飼育所での餉食作業及び配蚕と農家での取り扱いについては、動画でご覧下さい。

2023年5月8日月曜日

令和5年春蚕の掃立が行われました


 令和5年5月8日(日)群馬県内の大規模飼育所で春蚕の掃立が行われました。

掃立られた蚕品種は、群馬オリジナル蚕品種の「ぐんま細」、「ぐんま200」、「新小石丸」、「ぐんま黄金」。蚕糸科学技術研究所が育成した「プラチナボーイ」、「おりひめ」。一般蚕品種の春嶺×鐘月(カネボウが育成)、小石丸(原種)の8品種です。

掃立数量は約160箱(1箱:30,000頭)で、栃木県、茨城県、埼玉県からの委託飼育も行っています。

飼料は、群馬県が開発・製造している「くわのはな」という人工飼料を使っています。人工飼料を使うメリットとしては、①稚蚕飼育作業の手間が桑育に比べ1/10ですむこと ②細菌やウイルスが飼育室に持ち込まれないため、蚕が病気にかかりづらいこと ③除沙を行わないため遺失蚕が少ないこと ④蚕の経過がとても良く揃うことなどです。

掃立作業の手順としては、①催青台紙と覆紙を並べます ②1枚の台紙には15,000頭の蚕が入っているので、約400gの人工飼料を与えます ③蚕座周辺の人工飼料を掃き込み、蚕座を整えます ④飼料をもらった蚕は、30度 90%に調整された飼育室で暗飼育されます。

稚蚕共同飼育所では1~3令の飼育が行われ、5月18日(木)に農家に配蚕されます。

掃立の状況については、動画でご覧下さい。




2022年5月21日土曜日

クワにはアブラムシが着かない?

  クワにはアブラムシが着かないと言われています。着かない理由について農研機構(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)に聞いてみました。

 農研機構からの回答は次のとおりです。                      (1)クワは葉や茎を傷つけると乳液という少しべたつく白い液が出てきます。乳液を出す植物はほかにもありますが、一般的にアブラムシが少ない印象があります。例えばレタスなどでは、アブラムシが植物表面を歩いて葉の汁を吸おうとするとベタベタした乳液が出てきて、脚や口が張り付いて動けなくなったり、口の管が詰まったりすることが観察されています。                  

(2)農研機構では、桑の乳液に糖類似アルカロイドとかMLXタンパク質のような、昆虫にとって毒になる物質がたくさん含まれていることを明らかにしました。MLX56はアブラムシの成長を阻害する効果があることが報告されています。 

なるほど クワにアブラムシが少ないのはそういうことだったんですね。 

夏切桑園(6月、9月に収穫する桑園)

春切桑園(7月、10月に収穫する桑園)

夏切桑園の新梢


2022年3月17日木曜日

群馬の蚕糸業について

  群馬県内の四資産で構成される「富岡製糸場と絹産業遺産群」は、平成26年6月にユネスコの世界遺産に登録されました。世界遺産登録運動等により、蚕糸業の社会的・経済的価値や文化的価値が見直され、生きている蚕糸業の維持・存続に大きく貢献しています。

群馬県における蚕糸業の状況については、次のとおりです。                             

(1)現在でも群馬県は、①桑苗 ②蚕種 ③稚蚕共同飼育所 ④養蚕農家 ⑤製糸工場まで、繭・生糸を生産するのに必要なすべてが揃っている全国唯一の県です。

(2)養蚕農家や繭生産量を確保するため、大日本蚕糸会、県、市町村の支援により、再生産可能な繭代が確保されています。

(3)養蚕への新規参入にあたっては、県、市町村等一体となって桑園の確保、養蚕資材の確保をはじめ、養蚕技術を習得するために「ぐんま養蚕学校」も開講しています。

(4)蚕糸絹業を多くの方々に紹介するため、「群馬県立日本絹の里」が建設され、蚕糸絹業に関する多くの情報を発信しています。

(5)さらには新蚕業を創出するため、遺伝子組換えカイコの研究・開発にも取り組み、稚蚕共同飼育所を使用した有用物質生産、一般農家での高機能シルク生産も行われています。

碓氷製糸株式会社も、川上から川下までの方々との連携による純国産絹製品の生産・販売に尽力し、蚕糸に関する技術の維持・継承や絹文化の普及啓発に貢献してまいります。