2020年9月21日月曜日

首里織展が上毛新聞コラムに登場

 上毛新聞コラム「三山春秋」に、群馬県立日本絹の里で、9月10日から11月3日まで開催されている企画展「首里織展」について、下記のとおり掲載されました。 

▼〈一枚の布には山河がしまい込まれている〉。作家の立松和平さん(故人)が沖縄をはじめ全国各地の「染め織り人」を10年余り取材し感じたことで、染織をこうも表現した


 ▼〈自然と離れることのできない人間の、自然に一歩でも近づこうとする営為である〉と(『きもの紀行』)。沖縄の「首里織」を紹介する県立日本絹の里(高崎市)の企画展を見て浮かぶのは、この言葉だ

 ▼琉球王国の時代から王族、貴族の衣服として継承されてきた伝統の織物。この地の気候風土に育まれた花倉織はなくらおり道屯織どうとんおりなど独特の技法によるおおらかで格調高い作品と、その背景にある「山河」「自然」に引き付けられた

 ▼さらに感銘を受けたことがあった。展示作品の多くは群馬県のオリジナル蚕品種「ぐんま200」の糸が使われているという。しかも碓氷製糸(安中市)で繰糸されたものだ

 ▼県蚕糸技術センターでは特徴ある蚕品種の育成を続けており、1993年の「ぐんま200」は、県人口200万人到達を記念して命名した。輝くような白さと染色性の良さで和装、洋装に広く使われている

 ▼これを選ぶ首里織の姿勢から、品質の高さへの評価とともに、国産絹を使うことにより危機にある日本の蚕糸業を守ろうという思いが伝わる。苦難の歴史を経てきた織物と絹の国群馬とのえにしはもっと広く知られてほしい。





2020年9月19日土曜日

抗菌マスクシート

  9月19日の上毛新聞に「県産絹でマスクシート」の記事が掲載されました。このマスクシートは、碓氷製糸で製造するシルクトウ(繭糸の束)を原料に、大阪に本社のある東洋紡糸工業が抗菌用マスクシートを開発しました。この製品は、碓氷製糸のシルクトウとPLA(ポリ乳酸)で作られたマスク用抗菌性四層プロティンフィルターで、保水性が高く、快適な着け心地、マスクのインナーシートとしてオールシーズン使えます。また、エコロジー重視の生分解性も大きな特徴です。



【特徴】

1 抗菌性  PLA(ポリ乳酸)の弱酸性繊維としての」抗菌作用と2層目の抗菌性繊維が優れた抗菌効果を発揮します。黄色ブドウ球菌や肺炎桿菌に対する強い抗菌効果あ認められています。

2 快適性  シルクの保水性とPLA野放湿性が気化熱を誘発し、夏は肌をひんやり感じさせてくれます。硬質繊維が組み込まれており、ほどよい硬さがマスク内に適度な空間を生み出し、長時間の着用も可能です。

3 生分解性繊維 4層すべてが、シルク、トウモロコシを主とした天然由来の生分解性繊維です。微生物によって無害な物質へと分解する素材は、環境負荷を配慮した現代にふさわしい繊維といえます。 

【生産国】  日本 Made in Japan  

 【詳 細】

区 分

素 材

素材の特徴

組成割合

生分解性

1層目

シルク100

静菌性、美容効果、紫外線カット、保湿性

10

生分解性繊維

2層目

抗菌性繊維100

抗菌性、高保湿性

10

生分解性繊維

3層目

レギュラーPLA

硬質PLA100

植物由来、弱酸性で肌に優しく抗菌性、防臭性

60

生分解性繊維

4層目

PLA100

20

 【使い方】

1 折りたたんである内側を肌にあてるようにしてお使いください。わからなくなった場合は、光沢があり細かいドットがある側、指でなぞってザラッとした感触のある方をマスク側にしてください。

2 手洗いすることで数回程度繰り返し使用出来ます。中性洗剤で優しく押し洗いし、タオルなどで挟み込むように水気を切ってから陰干ししてください。 

2020年9月7日月曜日

お蚕さまの品種(8)錦秋×鐘和

 日本を代表する夏秋蚕用蚕品種が「錦秋×昭和」です。2019年の蚕種製造数量6,0000箱のうち、錦秋×鐘和は2,896箱で5割近くを占めています。

 錦秋×鐘和は、昭和30年にカネボウシルクエレガンスが育成した品種です。日本種と中国種の二元交雑種(実質は日・日×中・中の四元交雑種)で、繭は白色、繭糸繊度は2.8デニール内外です。虫質強健で、高温多湿のとき強健性を発揮するので、夏秋蚕期に多く飼育されています。繭糸長は1,300m内外、繭糸のほぐれもよく、広く国内で飼育されています。 

 蚕の品種を育成する際、①産卵量が多いこと(蚕種業者) ②虫質強健で繭生産量が多いこと(養蚕農家) ③生糸量歩合が高いこと(製糸業者)など、相反する目標が求められます。65年もの長い間、錦秋×鐘和が飼育され続けてきたのは、各業界に支持され、バランスのとれた蚕品種だと言えると思います。

孵化
3令餉食

5令餉食

営繭



2020年9月2日水曜日

お蚕さまの品種(7)ぐんま細

 しなやかで光沢のある絹織物を作るための蚕品種として育成されたのが「ぐんま細」です。

 群馬オリジナル蚕品種には、①世紀二一 ②ぐんま200 ③新小石丸 ④ぐんま黄金 ⑤新青白 ⑥蚕太 ⑦上州絹星 ⑧ぐんま細 ⑨なつこ の9品種がありますが、「ぐんま細」は繭糸繊度2.2デニールと最も細い蚕品種です。

 「ぐんま細」は、群馬県蚕糸技術センターが細繊度蚕品種として育成してきた日本種の「N7NONF」に、「世紀二一」の原種で中国種の「二」を交配した品種です。平成25年9月に、群馬県、養蚕農家、製糸業者、織物業者等で構成されるぐんまシルク認定委員会において「ぐんま細」として認定されました。

【ぐんま細の蚕と繭の特徴】

○4令、5令の飼育日数は、「ぐんま200」とほとんど変わりません。
○ぐんま細の食下量は、「ぐんま200」の90%程度です。
○幼虫はやや小さく、繭も小ぶりなため、収繭量は普通蚕品種の8~9割程度です。
○蚕の発育経過の揃いも良く、虫質も強健で、ぐんま200同様飼育しやすい品種です。
ぐんま細(上)とぐんま200(下)の繭


【ぐんま細の糸の特徴】

○生糸量歩合は、普通蚕品種より1~2%高くなります。
○繭糸繊度は、2.2デニール内外と細く、繭糸長は1500m以上です
○繭糸の最も太いところと、細いところの差(繊度間差)が少なく、繊度ムラの少ない生糸を作ることができます。
○生糸は、破断強度が大きく、丈夫です。
○生糸の白度はぐんま200と同程度、染色性もよく、風合いの良い生糸になります。

蚕品種別粒内繊度の比較


ぐんま細とぐんま200の糸を比較する表のとおりです

【ぐんま細の生糸の評価】
(沖縄の染織作家) ぐんま細の生糸は非常に白く、絹らしい艶、のび、手触り、ぬめり感がとても良い。
(福島機屋) 国産生糸のメリットは、生糸の白度と、手機で織り上げたときの風合いに素晴らしい特徴を発揮する。
(丹後の機屋) 節が少なく製織作業はしやすい。染色性も良い。また、ぐんま細は、普通の織物より柔らかく、しなやかで、風合いの良い生地になった。

 ぐんま細の繭からは、繊度ムラや節の極めて少ない生糸が生産されます。一押しの繭・生糸ですので是非使ってみてください。

2020年8月17日月曜日

お蚕さまの品種(6)ぐんま200

  群馬オリジナル蚕品種「ぐんま×200」は、蚕は丈夫で飼育しやすく、生糸の白度が高いので、養蚕農家さんからも機屋さんからも好評を得ています。

 「ぐんま×200」は、平成6年3月に春蚕用蚕品種として指定を受け、平成8年3月には夏秋蚕用蚕品種として指定を受けて年間を通じて飼育出来る通年用蚕品種です。この蚕品種は、今後の蚕糸業の発展に大きく寄与することを願うとともに、県民が200万人に達したことを記念して「ぐんま×200」と命名されました。「ぐんま×200」は、春蚕、夏蚕、晩秋蚕、晩晩秋蚕に飼育され、群馬県の年間飼育数量の4割以上を占めています。

 「ぐんま×200」は、日中一代交雑二化性の白繭種で、桑にも人工飼料にも適し、眠起はよく揃い飼育しやすい品種です。幼虫の体色は青系で斑紋は形、繭のちぢらは普通です。

 生繭繰糸にも適し、生産された生糸の白度は高く、繭糸繊度は、春蚕期が3.0デニール内外、夏秋蚕期が2.7デニール内外。繭糸長は、春蚕期が1400m内外、夏秋蚕期が1200m内外となっています。

 平成20年度群馬県蚕糸技術センターが群馬県繊維工業試験場の協力を得て「群馬オリジナル蚕品種の生糸と外国産生糸の性状比較」を行ったところ、①生糸の練減率と伸度は、国産糸、中国糸、ブラジル糸の間に大きな差は無かった。②生糸の破断強度は一般的に強い生糸の目安とされる4.0gf/Dを上回り、「ぐんま黄金」と「上州絹星」が特に高かった。③白度はどの品種も同程度だが「ぐんま200」が高かった。

このように、「ぐんま200」の白度については、試験研究機関の調査により証明されています。

白度試験成績でわかるように、白度の高さが「ぐんま200」の最大の特徴

 

「ぐんま200」の繭と生糸
繭の形は楕円形で、解じょの良さがこの品種の特徴

 





2020年8月11日火曜日

一代雑種とは

 養蚕の発展を支えた技術革新としては、蚕当計、一代雑種、人工孵化、人工飼料、遺伝子組換え蚕などが上げられるが、繭生産に最も貢献した技術は外山亀太郎博士が1906年(明治39年)に提唱した「一代雑種」の利用だと思う。
 生物は、近親交配を続けると弱くなっていくが、遠縁の系統同士を交配すると、その子の一代だけは生育旺盛で揃いも良く多収になる。この現象をヘテロシス(雑種強勢)という。一代雑種の主な特徴は①産卵数が増える ②孵化や眠起が斉一で幼虫の経過が短くなる ③病気や不良環境にも強くなり飼育が容易 ④繭重、繭層量が多くなる ⑤繭糸繊度が太くなり繭糸長も長くなる などである。
 トウモロコシでは一代雑種の利用は知られているいるが、植物の一代雑種の第一号は1926年に埼玉県農業試験場で作出されたナスと聞いている。
 さて、養蚕農家が飼育している蚕品種は、雑種強勢を利用するために交雑種が使われており、その卵を「普通蚕種」という。この普通蚕種の製造に用いる蚕種を「原蚕種」という。
 二つの品種間の交雑で、最も強く雑種強勢が現れるのは一代雑種(単交雑)で、虫質強健で均一な繭が生産される。しかし、この単交雑の欠点は、普通蚕種を作るために飼育される蚕(原蚕)が弱く、産卵数が少ないことである。単交雑の欠点を補うために考え出されたのが四元交雑で、現在広く利用されている。
交雑形式を図示すると次のとおり。

 
 

2020年8月4日火曜日

お蚕さまの品種(5)世・紀×二・一

 世・紀×二・一(せいきにいち)は、群馬県蚕業試験場が13カ年かけて育成した日中四元交雑の二化性品種で、平成3年に中細繊度の特徴ある蚕品種として品種指定された。
【育成の背景】
 当時、和装絹織物の一層の高級化を図るため、繭糸繊度が従来の和装用より細い中細繊度で、しかも繭糸繊度偏差の少ない繭が要望されていた。育成にあたっては、一般普及品種と比較して、農家や製糸の生産性の劣らないことを目標とした。
【性 状】
 全国7カ所の試験研究機関で行われた蚕品種性状調査の結果を見ると、対照品種に比べ5令の飼育日数がやや長く、化蛹歩合は96.5%と高く、繭糸繊度は2.6デニールと細く、繭糸長は1500m以上と長かった。

【繊度曲線】

「世・紀×二・一」と一般蚕品種の繭糸繊度曲線を比較すると、「世・紀×二・一」では最外層から200m付近のピークが認められず、最内層まで穏やかな曲線を描き、細くなっている。また、「世・紀×二・一」は、最も細い最内層部の繊度は一般蚕品種と大差なく、繊度偏差は小さくなり、粒内繊度の変動係数は低くなった。

世・紀×二・一の繭と生糸
「世・紀×二・一」は、群馬県無形重要文化財保持者だった藍田正雄さんによって染色性の良さが認められた。「世・紀×二・一」の生糸には蛍光黄変色素が含まれていること、セリシン2層部には溶けにくいセリシンを含んでいることが、染色性につながっていると思われる。