遺伝子組換えカイコの2回目は、カルタヘナ法についてです。
カルタヘナ法の正式名称は、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」で、遺伝子組換え生物の安全性確保を図るための法律です。実験室など外界と隔離され、拡散防止措置が施された施設内で使用する「第二種使用等」と、屋外など外界と隔離しないところで利用する「第一種使用等」があります。
群馬県安中市松井田町にある碓氷製糸株式会社は、日本最大規模の器械製糸工場として純国産生糸にこだわり続け、全国各地で生産された繭を高品質で特徴ある生糸に加工し、全国に出荷しています。ブログでは、養蚕や製糸の技術を解説するとともに、蚕糸に関する各種情報をお届けします。
遺伝子組換えカイコの2回目は、カルタヘナ法についてです。
カルタヘナ法の正式名称は、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」で、遺伝子組換え生物の安全性確保を図るための法律です。実験室など外界と隔離され、拡散防止措置が施された施設内で使用する「第二種使用等」と、屋外など外界と隔離しないところで利用する「第一種使用等」があります。
GMカイコすなわち「遺伝子組換えカイコ」とは、遺伝子の組換え技術により、カイコに他の生物の遺伝子を組み込んだカイコのことを言います。
カイコは家畜化された昆虫で、「逃げない、飛べない、人間に危害を加えない」等の特性を持っています。また、カイコは、繭糸の成分の97%はタンパク質で、約1ヶ月という短期間に大量のタンパク質を合成する力を持っています。
遺伝子組換えカイコは、平成12年当時の蚕糸・昆虫農業技術研究所で、世界で初めて作出することに成功しました。世界最高の遺伝資源や研究蓄積を持つ日本ならではの大きな研究成果です。
遺伝子組換え研究の目指すところは、日本が得意とするカイコの研究蓄積を活かし、世界に先駆けた有用物質生産や高機能シルクの研究開発により、養蚕農家の所得向上と地域の新たな産業振興や雇用創出に貢献出来る「蚕業革命」を起こすことです。
具体的な事例として、オワンクラゲの遺伝子を組み込んだ緑色蛍光シルク、高染色性極細シルク、クモの遺伝子を組み込んだくも糸シルク、再生医療用の細胞接着シルクなどがあり、緑色蛍光シルクについては平成29年から、高染色性極細シルクについては令和3年から群馬県内の養蚕農家で大量飼育が始まりました。
カイコを使った有用物質生産としては、コラーゲンなどの化粧品素材、検査薬や診断薬、さらには医薬品等の有用物質を生産する研究が進められており、その成果として平成22年度から検査役用のタンパク質生産、平成28年度からは化粧品用のコラーゲンを生産する遺伝子組換えカイコの実用飼育が稚蚕共同飼育所の施設を使って行われています。
これらの取り組みを一層推進するため、令和元年9月17日には、国レベルで「シルクビジネス協議会」が立ち上がり、用途開発について検討されています。
これから、数回にわたり「遺伝子組換えカイコ」について紹介していきます。
蚕品種により、繭糸長や繭糸繊度が異なることは前回説明したとおりです。今回は、繭糸繊度の違いが織物にどのような影響を与えるのか、また繭糸繊度がどのような粒内繊度曲線を示すのか、紹介します。ぐんま200の繭糸繊度は約3.0デニール、蚕太の繭糸繊度は約4.5デニール、ぐんま細の繭糸繊度は約2.2デニールです。この三品種を比較してみました (平成22年度群馬県蚕糸技術センターの研究成果発表会資料より)
【織物の性能評価】 蚕品種別の織物の性能評価は下表のとおりです。破断点強度については、ぐんま細はぐんま200より強度物性が大きく、蚕太は小さいことが確認されました。剛軟性については、ぐんま細はぐんま200より柔らかい織物となります。防しわ率についてはほとんど差がありません。KESによる測定結果として、ぐんま細はぐんま200より曲げ柔らかいことが確認されました。
【粒内繊度曲線】 蚕品種別の粒内繊度曲線は、下のグラフのとおりです。蚕太は外層から200~350mの繭糸長で最も太い4.6デニールで、最後は2デニールくらいになります。ぐんま200は、外層部から100m付近で3.2デニールに、その後緩やかに細くなります。ぐんま細は、外層部から緩やかに太くなり、550m付近で2.4デニールとなり、その後緩やかに細くなっています。繊度ムラの少ない生糸を作るためには、繭糸が細く、長く、粒内繊度差が少ないことが大切です。
養蚕農家にとっては、繭が大きく、病気に強くて飼育しやすい蚕品種が望まれています。
機屋さんは、繊度ムラの少ない生糸、つまり繭糸長が長く、繭糸繊度が細く、粒内繊度差の少ない繭から生産された生糸を求めています。
群馬県蚕糸技術センターでは、県が育成したオリジナル蚕品種(8品種)+対照品種(春嶺鐘月)の性状調査を定期的に行っています。その結果については下表(春蚕期調査)のとおりです。
9品種で、一番繭糸繊度が細いのが「ぐんま細」の2.2デニール、最も太いのが「蚕太」の4.48デニール、繭糸長の最も長いのが「世紀二一」、「ぐんま細」の1,620m、最も短いのが「蚕太」の648mです。小節点については、「世紀二一」が96点で最も高く、「蚕太」が92.5で最も低くなっています。
生糸を扱う場合の参考ににしていただければ幸いです。
【ネットロウシルクとは】 通常生糸は、7~9本の繭糸から作られますが、ネットロウシルクは30~50個の繭の糸が網状になって一本に集約されます。糸がちぢれるために1200m分の糸が約200mの長さにしかなりませんが、普通のシルクより軽く毛糸のように膨らみ、「冷たく、重い」というシルクの常識を覆す生糸です。なお、毛羽立ちを抑えるために、生糸でカバーリングを行い出荷しています。
【繰糸方法】 ネットロウシルクの繰糸方法は、煮た繭から引きだした繭糸を形成枠上で網状に編成し、それを更に小枠に巻き取るというものです。このような形態を持ったネットロウシルクは、嵩高性、伸縮性に富んでおり、生糸と紡績糸の特徴を併せ持った生糸です。また、ネットロウシルクの芯には、伸縮性のナイロンポリウレタン、金糸、銀糸、綿など、様々な繊維を入れることができ、様々な用途に対応することができます。
【ネットロウシルクの用途】 ネットロウシルクの嵩高性を活かして、ストール、ボディタオルなどに使われています。ナイロンポリウレタンを芯材としたネットロウシルクは、伸縮性を活かしてストールなどに使われています。
正倉院に保存されている「税」としての「絁」は、繭から挽きずりだした太糸で、セリシンが残っており、張力をかけずに時間をかけて糸にし、大変な手間をかけて織り上げたものと考えられています。
大日本蚕糸会蚕糸科学研究所が開発した太繊度低張力糸(ふい絹)は、カイコが吐いた繭糸の機能をそのまま身に纏うことを目標に開発された生糸です。
【太繊度低張力糸とは】 ①低張力繰糸(繰糸スピードを落とした繰糸)により、繭糸の持つちぢれを残してその特性を活かす。 ②真綿のように繭糸の絡みによる強さの機能を活かす。 ③繊度を太くすることにより、セリシンを残し、セリシンの持つ吸湿、保温の機能を活かす。このような特性から、しわや洗濯に強い「普段着」としての衣料、言い換えれば「軽くて暖かく、また柔らかで爽やかで、着るほどに体に馴染む衣料」の素材に適しています。しかし、繭からほぐれるときに出る綿状の節や、太さのムラの発生もあり(これらも繭糸の持つ本来の特徴である)、従来の生糸の規格水準からすると欠点要素も持っています。
【太繊度低張力糸の繰糸方法(フィッシングアップ方式)】 カイコの吐いた糸の形状(ちぢれ)を残すために、繭糸一本当たりの張力が0.4g以下となるように繭糸を引きだし、たるんだ部分だけを巻き取る方式。大日本蚕糸会蚕糸科学研究所で、フィッシングアップ方式を機械化し、大量生産が可能となりました。
【太繊度低張力糸の用途】 これまでの用途としては、セーター、ストール、夏帯などに使われています。
【太繊度低張力糸(丸)】 繰糸能率を向上させつつ、太繊度低張力糸の特徴をいかした生糸が「太繊度低張力糸(丸)」です。ふい絹は光沢のある扁平糸ですが、「丸」は独特の繰糸方法により生糸が丸みを帯びています。価格の安いのも大きな特徴です。 しかし、繰糸の際に出る毛羽状の綿や繊度ムラがふい絹より大きいことなど、欠点要素もあります。