蚕品種に対しては蚕糸関係者みんなが関心を持っています、蚕種業者は産卵量が気になるでしょうし、養蚕農家は病気に強く大きな繭を作る蚕品種を望んでいます。製糸業者は解じょが良く生糸量歩合の高い品種を希望し、絹業者は、繊度ムラや節が少ない生糸や特徴ある生糸を求めています。
そこで、日本の蚕品種について少し調べてみたいと思います。
第1回目はロイヤルシルクといわれ、皇居御養蚕所で飼育されている「小石丸」についてです。
平塚英吉先生が1969年に著した「日本蚕品種実用系譜」によれば、小石丸は長野県小田中源右衛門が寛政の初年(1790年頃)に中如来種から特別良種を発見したもので、虫質強健、眠起斉一、繭形やや小なるも光沢優美、解じょ良なる良種である。小田中源五郎によれば、小石丸は長い星霜を重ねる間に繭型の変移があった。発見当時は短小なりしも天保年間に至りやや豊艶に進み枡粒約450となり、明治の初年は約370、明治20~30年には300内外、明治末頃には270となった。この間に虫性は変化無く、殊に病感の憂なく、食桑少なく結繭多量であって卓越せる品種であるという。
小石丸の由来については種々の説があるようですが、小田中源右衛門育成説が多くの支持を得ているようです。
いずれにしても古い選出の歴史を持っており、寛政文化の頃すでに相当の人気があり、天保から嘉永にかけて盛んに用いられ、その後明治時代にわたり長く愛用されたことは、実用性の高い品種であったことを示しています。
皇居紅葉山御養蚕所で飼育されている小石丸については、明治38年皇太子妃殿下(貞明皇后)が当時の東京蚕業講習所(現在の東京農工大学)に行啓され、養蚕や製糸を視察されました。その折、当時最も優秀な蚕品種とされていた「小石丸」の献上を受けられたものです。
碓氷製糸でも、京都の工房からの委託を受け、小石丸の繭と生糸の生産を行っています。
小石丸の繭の単繭重は約1.2g(交雑種は約2g)くらいと小さく、生糸量歩合も約8%(交雑種は約19%)と少なく、極めて貴重な繭と生糸です。
貴重な繭を生糸に加工する製糸工程も、高品質な小石丸生糸を作るために、1人3緒(自動繰糸機の場合は1人60緒)を担当し、低速で繰糸されています。
上から、小石丸、新小石丸、ぐんま200の繭です。小石丸は日本種特有の俵型をしています。 |
小石丸の繰糸。1人3緒を受け持ち、低速繰糸しています。 |