2022年2月14日月曜日

遺伝子組換えカイコについて(5)

 群馬県蚕糸技術センターの「令和3年度成果発表会」において、「遺伝子組換えカイコによる高機能シルク生産」についての発表がありましたので、概要について投稿します。

○高染色性シルクの繭生産と生糸生産                        高染色性シルクは染色性が高いとともに、繭糸が超極細という特徴がある。       令和3年度は、2戸の農家が延べ3回、10箱の飼育を行い、生糸が生産された。      下表はその実績である。品種の特性として単繭重は1.5g程度、生糸量歩合や解じょ率はあまり良い成績ではないが、繊度については概ね期待通りとなった。

○遺伝子組換えカイコによる高機能シルクの今後の課題               (1)高染色性シルクは、緒極細であることが繰糸効率を下げてしまう。また、繭が小さいため箱当たり繭生産量が少ない。                          (2)カルタヘナ法1種使用に則った取り扱いが必要となる。そのため、蚕室の改修、作業制限、飼育後のクワコモニタリングなどの経費と労力を求められる。          (3)前述の要素は繭担架、生糸単価に跳ね返るため、生糸実需者にとっては原料に大きなコストがかかる。                                 (4)これらを解決するため、川上~川下までの連携と新たな用途開発により、日本発の新蚕業の創出が期待される。
高染色性シルクを生産する繭

高染色性シルク繭を使った21中の繰糸

群馬オリジナル蚕品種「なつこ」の実用飼育

 令和4年2月9日 群馬県蚕糸技術センターの成果発表会が開催され、暑さに強い群馬オリジナル蚕品種「なつこ」の実用飼育結果の発表がありましたので、概要を投稿します。

○令和2年度初秋蚕期繭品質評価成績                         令和2年度は5令期以降の猛暑により全体的に選除繭歩合が高く、県内で生産された繭格の平均は2Aと他の蚕期に比べ圧倒的に低かった。                    「なつこ」の飼育は、稚蚕時に飼育経過にばらつきが見られ、遅れ蚕が1~2割程度発生した。バラツキにより仕上がり頭数が少なく、収繭量が伸びなかった。         「なつこ」の暑さに強いという特徴は、選除繭歩合の低さから確認出来たものの生糸量歩合が低く、農家の収益は伸びなかった。

○令和3年度初秋蚕期繭品質評価成績                         令和3年度の初秋蚕期は、人工飼料接触性の観点から「日母」の交雑種を使用した。    稚蚕飼育時の経過のバラツキもなく、遅れ蚕の発生も少なかった。           繭品質評価の成績も、群馬県より猛暑日の少なかった県外の「錦秋鐘和」と同等の成績だった。
○実用蚕品種には、蚕種製造、蚕の飼育、製糸 すべての工程においてバランスの良さが求められる。「なつこ」は、「中母」の人工飼料接触性が若干悪く、生糸量歩合も「錦秋鐘和」より低いため、さらなる品種改良が必要と考えている。

○「なつこ」の生糸の評価について                         碓氷製糸株式会社では、「なつこ」の生糸の特性を明らかにするため、織物産地に評価依頼した。その結果として、                             (1)普通蚕品種(春嶺鐘月や錦秋鐘和)に比べ、明らかに抱合が強く、繊度ムラや細だれが無く、絹撚糸生産段階での作業がスムーズで、合糸性の高い高品質な絹撚糸を生産することができた。                                   (2)「なつこ」の絹撚糸を使い、帯地の開発を行った結果、一部満足のできる風合い(バルキー性高く、シャリ感のある織物)の織物が完成した。


2022年2月9日水曜日

遺伝子組換えカイコについて(4)

 これまで、①遺伝子組換えカイコの作り方 ②遺伝子組換えカイコで何ができるのか ③遺伝子組換えカイコとカルタヘナ法について 掲載してきました。            では、産業利用のために遺伝子組換えカイコを飼育する場合、飼育形態や飼育場所、カルタヘナ法の区分はどうなるのか、まとめてみました。


群馬県では、稚蚕共同飼育所の施設を利用して、カルタヘナ法二種使用、全令人工飼料育で、ヒトコラーゲンなどの有用物質生産が行われています。              また、高機能シルク(高染色性シルク、緑色蛍光シルクなど)生産については、養蚕農家で、カルタヘナ法一種使用、壮蚕は桑育で飼育が行われています。           なお、産業利用の遺伝子組換えカイコの飼育はすべて契約生産となっています。     これ以外にも、企業においては医薬品の原料となる抗体はじめとする有用物質生産の研究・開発が行われていると推察します。


2022年2月1日火曜日

緒糸(キビソ)とは

緒糸(キビソ)とは、繭から糸口を見つけるために、繭の表面からもつれた状態で引きだした糸のことです。                                   碓氷製糸では、太めの第一緒糸と細めの第二緒糸を作っています。            緒糸には40%ものセリシンが含まれており、健康タオルなどには最適な素材です。 また、魅力的な形状を持つことから、壁紙などにも使われています。

【第一緒糸】第一緒糸は、もつれた状態で引き出された繭糸を大枠に巻き取った糸です。太さは約3000デニールです。     

【第二緒糸】索緒機に形成枠を取り付け、これに繭糸を巻き付け、一本の糸を網状に集約します。この網状生糸に、さらに繭糸を絡めて(カバーリングして)、小枠に巻き取ります。第二緒糸は索緒器で作られるカバーリングされた網状生糸です。太さは約1000デニールです。

では、緒糸の製造工程を動画でご覧ください。

2022年1月13日木曜日

遺伝子組換えカイコについて(3)

 【遺伝子組換えカイコの作り方】                          遺伝子組換えとは、その生物(蚕)が持っていない外来遺伝子を組み込むことです。そのメリットは、従来の品種改良より短期間で大幅に改良出来ることです。

遺伝子組換えカイコの作成方法は、                        (1)蚕の卵に外来遺伝子のDNA溶液を注射します。                (2)孵化した幼虫を飼育し、成虫同士を交配させ卵を採ります。          (3)卵や幼虫、成虫の中から遺伝子組換えカイコを見つけます。              こうして作られた遺伝子組換え蚕は、外来遺伝子が染色体に組み込まれるため、継代により安定的に得ることができます。

【遺伝子組換えカイコで何ができるのか?】                    (1)医薬品・医療用素材の開発                           遺伝子組換えカイコが実用化されているものとしては、病気の診断等に使用される診断キットがあります。これは、診断キットに必要なタンパク質成分をセリシン層に作らせ、抽出・精製し、診断キットの製造に使われています。                    また、ヒト型コラーゲンも同様に製造され、化粧品に利用されています。                           
(2)新素材の開発                                 ①蛍光色を発する繭・生糸                             クラゲやサンゴの蛍光タンパク質を繭糸のフィブロインに作らせることで、緑色、赤色、オレンジ色などの蛍光を発する生糸です。                       ②クモ糸シルクの開発                               クモ糸の特性を付加したシルクは、従来のシルクに比べよく伸びて切れにくい性質を持っていると言われています。また、強度も通常のシルクより強くなっています。実用化を目指して研究が進んでいます。                              ③高染色性超極細シルク                              極細繊度蚕品種「はくぎん」をもちいてアミノ酸配列を改変した遺伝子組換え系統は、「はくぎん」よりさらに細く、染色性が良いため、発色が良く美しい光沢があります。


このほかにも、創傷保護材としての高機能フィブロインフィルムの研究開発や、遺伝子組換えバキュロウイルスの利用が進んでいます。

2021年12月20日月曜日

塩蔵繭から生産された生糸の特性について

1 繭の保存方法について                              碓氷製糸株式会社では、お客さまのニーズに応じて①生 ②乾燥 ③塩蔵で繭を保存し、生糸生産を行っています。今日は塩蔵の処理方法と塩蔵繭から生産された生糸の特性について報告します。

2 塩蔵処理について                                             ①用意するものは、繭、天然海水塩、100㍑のポリバケツ、ビニール袋、木綿の布、輪ゴム   または紐、泥粘土                                   ②100㍑のポリバケツの中にビニール袋を入れ、袋の底に晒木綿の布を敷きます。        ③この上に繭を乗せ、天然の海水塩を振り巻きます。                  ④布+繭+塩の順番で8層くらいに積み重ねます。                      ⑤中の空気をよく抜いて輪ゴムまたは紐で縛り、泥粘土で密閉し、窒息させ殺蛹しま  す。                                       ⑥7~10日後にポリバケツから繭を取り出し、風乾します。

3 保存状況                                        7~10日後に繭をポリバケツから出してみると、水分が繭の外へ少ししみ出てていますが、繭からの発蛾も繭の汚れもなく、振りまいた塩が湿っており、高い吸湿効果が見られました。塩蔵は密閉することで殺蛹し、塩は湿度調整のために有効です。なお塩蔵処理に当たっては塩の量により生糸品質に差が出るといわれています。

4 生糸の特性について                              ①生繭、塩蔵繭から繰製された生糸は、乾繭などに比べ極めて白度が高い。       ②小石丸の塩蔵では、解じょが良好で生糸の強力伸度が優位に出る。一般品種におい   ても解除は良い。                                 ③水蒸気処理の生糸は、強力が高くやや硬直な感触で光沢が悪い。           ④塩蔵繭から繰製された生糸は、伸度、強力、ヤング率ともに高い(下の表のとおり)。 

日本シルク学会誌第15巻より

ポリバケツに繭を入れ天然海水塩を振りかけます

塩を振りかけた後、木綿の布を繭の上に敷きます

泥粘土でフタをします
7日~9日後に取りだし、風乾します

2021年12月7日火曜日

遺伝子組換えカイコについて(2)

 遺伝子組換えカイコの2回目は、カルタヘナ法についてです。

カルタヘナ法の正式名称は、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」で、遺伝子組換え生物の安全性確保を図るための法律です。実験室など外界と隔離され、拡散防止措置が施された施設内で使用する「第二種使用等」と、屋外など外界と隔離しないところで利用する「第一種使用等」があります。


群馬県蚕糸技術センターでは、主務大臣の承認を受けた第二種使用の蚕室で「蚕種製造」や「稚蚕飼育」を行い、前橋遺伝子組換えカイコ飼育組合は、稚蚕共同飼育所を第二種仕様に改造、承認を受け、コラーゲンなどの有用タンパク質生産を行っています。 県内2戸の養蚕農家は、蚕の飼育室を第一種使用に改造、承認を受け、緑色蛍光シルクや高染色性・極細シルクの繭生産を行っています。