2021年4月30日金曜日

お蚕さまの品種(10)なつこ

暑さに強い蚕「なつこ」の性状について

                          「蚕糸技術センター研究成果発表会」資料より

【育成について】

○日本種原種「榛」と中国種原種「明」を掛け合わせた交雑種。

○日本種原種「榛」:二化性の日日固定種。斑紋は形、体色は青系、繭は浅縊俵型の白繭

○中国種原種「明」:二化性の中中固定種。斑紋は姫、体色は青系、繭は楕円形の白繭

【蚕糸技術センターにおける基本調査】

 ア 飼育日数は、ぐんま200や錦秋鐘和と同程度である。

 イ 蚕児の発育経過は斉一、虫質もぐんま200や錦秋鐘和と同様に飼育しやすく、飼育、製糸技術ともに既存技術で対応できる。

 ウ 猛暑が続く初秋蚕期の飼育では、普通蚕品種と繭の大きさは同じであるが、減蚕歩合が低いため、箱収が普通蚕品種よりも1割程度増加する。また、解じょ率は普通蚕品種より高い。

 エ 普通蚕品種と同程度の繭糸長、繭糸繊度である。生糸量歩合は1%程度低いが、普通蚕品種と繭重は同程度で、箱収が普通蚕品種より1割程度高いことから、生糸の生産量は高くなる。

1 飼育に関する調査(H30初秋蚕)

蚕品種

孵化歩合(%)

飼育日数(日:時)

減蚕歩合(%)

化蛹歩合(%)

13

全令

令中

蔟中

繭中

なつこ

91.89

13:07

24:05

0.8

0.7

4.1

94.3

ぐんま200

90.78

13:07

24:05

9.8

2.0

12.5

78.7

錦秋鐘和

 

13:07

24:05

4.9

2.9

15.2

76.9

2 収繭量及び繭質に関する調査(H30初秋)

蚕品種

箱収(kg)

 

対結繭蚕(%)

1㍑粒数()

繭重(g)

繭層歩合(%)

上繭歩合

玉繭歩合

なつこ

48.42

96.85

0.0

82

1.69

22.26

ぐんま200

43.35

96.49

0.0

89

1.64

23.31

錦秋鐘和

42.62

93.11

0.2

91

1.66

22.56

3 製糸に関する調査(H30初秋蚕)

蚕品種

生糸量歩合(%)

解じょ率

(%)

繭糸長

(m)

繭糸量

(g)

繭糸繊度(d)

歩掛

(%)

小節

()

なつこ

19.21

77

1,340

0.32

2.17

86.3

94.5

ぐんま200

20.20

58

1,436

0.32

2.05

86.6

94.5

錦秋鐘和

20.16

56

1,466

0.33

2.07

89.3

95.0

4 生糸特性(R1夏蚕)

蚕品種

伸度

(%)

強力

(gf/d)

ヤング率

(kgf/mm2)

小節点(点)

なつこ

22.8

4.17

1,353

95.0

ぐんま200

22.3

4.17

1,334

97.5

錦秋鐘和

22.6

4.21

1,360

96.5

 

【農家における実証飼育試験】

 ○掃 立:令和元年718日 大胡稚蚕共同飼育所にて3令人工飼料育

 ○配 蚕:令和元年728日 配蚕以降、4令、5令を農家で飼育

 ○上 蔟:令和元年810日~11

 ○繭出荷:820

  ○飼育及び繰糸成績

  ア 飼育日数:飼育経過は対象品種とほぼ同じ。給桑量も違いはなく、現在の飼育標準表をそのまま活用できる。

  イ 気象状況:令和元年の初秋蚕期は、配蚕後から繭出荷する(728日~820日)まで高温が続き、災害級の猛暑と言われた昨年より暑くなった。また、初秋蚕期の飼育を行ったすべての農家が、「昨年よりも上蔟してから落ちて死んでしまう蚕や、繭の中で死んでしまう死にごもりが多く、今までに無いほど作柄が悪かった」と口を揃えていうほど蚕への被害が大きかった。

  ウ 収繭量:「なつこ」の箱収が対象品種に比べ、12%多かった。

  エ 繭層歩合:「なつこ」の繭層歩合は、対象品種より低かった。

  オ 健蛹歩合:蚕の強健性の指標となる健蛹歩合は、「なつこ」が高かった。

  カ 生糸量歩合:「なつこ」の生糸量歩合は、対象品種と同程度だった。

  キ 解じょ率:解じょ率は「なつこ」が高かった。

  ク 繭糸長:繭糸長は「なつこ」が短かった。

1 収繭量及び繭質に関する調査結果

蚕品種

箱収

(kg)

1㍑粒数(粒)

繭重

(g)

繭層歩合

(%)

健蛹歩合※1(%)

仕上り頭数※2

なつこ

41.72

78

1.73

23.31

95.88

24,115

錦秋鐘和

37.14

91

1.66

24.00

86.17

22,373

1 上繭粒数に対する健蛹数から算出

2 箱収と繭重から飼育料1箱(3万頭)あたり繭として仕上がった頭数を算出

2 製糸に関する調査結果

蚕品種

生糸量歩合(%)

解じょ率

(%)

繭糸長

(m)

繭糸繊度

(d)

歩掛

(%)

小節

()

なつこ

19.44

68

1,293

2.37

83.40

95

錦秋鐘和

19.45

52

1,466

2.03

81.04

95

表3 生糸、絹糸の物性

区分

蚕品種

引張強度

(g/d)

破断点伸度

(%)

引張弾性率(kg/mm2)

白度

生糸

なつこ

3.98

25.7

1,487

32.60

ぐんま200

3.99

25.8

1,413

28.05

錦秋鐘和

3.75

24.8

1,404

34.69

絹糸

なつこ

3.31

14.9

1,636

59.7

ぐんま200

3.57

17.6

1,441

62.78

錦秋鐘和

3.38

15.9

1,393

60.01

 

2021年3月23日火曜日

「群馬の養蚕」(蚕の飼育解説ビデオ)

 養蚕農家は、「カイコはケイコ(蚕は稽古)」、「蚕は60回飼って一人前」などと言います。繭生産のための養蚕業は、桑を育て、蚕を飼育する産業であり、作柄は桑の品質や気象条件に大きく左右されることから、このようなことが言われてきました。

 しかし、現在の稚蚕飼育(1~3令飼育)は、空調設備の整った稚蚕専用蚕室で、人工飼料育で飼育しています。そのため、蚕の成育はよく揃い、病気の発生も全くなく、計画通りに農家へ配蚕することができるようになりました。

 壮蚕飼育においても、蚕室には大型の暖房機、大型の換気扇を装備し、蚕室・蚕具の徹底消毒により、蚕病の発生もほとんどなく、品質の良い繭の生産が行われています。

 しかしながら、蚕は生き物です。蚕を飼育する人が観察を怠ったり、手抜きをすれば、蚕病が発生したり、繭品質が低下してしまいます。

 今回のビデオは、掃立から繭出荷までの養蚕作業工程を解説しています。このビデオにより、養蚕農家の高品質繭生産への取り組みと、その技術について、理解を深めていただければ幸いです。

 

2020年12月9日水曜日

お蚕さまの品種(9)春嶺×鐘月

 春嶺×鐘月(しゅんれいしょうげつ)は、カネボウシルクエレガンスが育成し、昭和43年に春蚕期用蚕品種として登録されました。日欧固定種と中中固定種の交雑種で、繭は白色、繭糸繊度は3.1デニール内外です。虫質強健で飼育しやすいが、稚蚕期の高温多湿の場合三眠蚕が出ることもあるので、適温の保持が肝要です。

 2019年の春嶺×鐘月の蚕種製造数量は1,477箱で、全蚕種製造量の24%を占め、国内各地で広く飼育されています。

 春嶺×鐘月が登録されるに当たり、当時11カ所の蚕業試験場等で蚕品種性状調査が行われました。日本を代表する春蚕用蚕品種なので、その成績を掲載しておきます。

11カ所の蚕業試験場等の調査成績(平均)

【参 考】 2019年の蚕品種別蚕種製造数量              

                                      

2020年10月6日火曜日

令和2年晩秋蚕の繭出荷

 晩秋蚕の繭出荷が行われています。今日(10月5日)は、県内はじめ栃木、岐阜より約2,000kgの繭が碓氷製糸に運び込まれました。

 運び込まれた繭は、①繭の品質を調査するため、各袋からサンプルを採取します。②ベルトコンベアで乾燥場まで運ばれ、繭乾燥機に投入されます。③乾燥機では、投入時110度、6時間後には60度まで徐々に下げて、繭乾燥を行います。④乾燥を終えた繭は、品種別、産地別に繭袋または蜂の巣倉庫に入れて保管します。

 晩秋蚕の繭は、フリはチョット小さめですが、内部汚染繭なども少なく真っ白な繭です。良い原料繭です。

 繭の搬入から乾燥までの工程は、ビデオでご覧下さい。 

2020年9月21日月曜日

首里織展が上毛新聞コラムに登場

 上毛新聞コラム「三山春秋」に、群馬県立日本絹の里で、9月10日から11月3日まで開催されている企画展「首里織展」について、下記のとおり掲載されました。 

▼〈一枚の布には山河がしまい込まれている〉。作家の立松和平さん(故人)が沖縄をはじめ全国各地の「染め織り人」を10年余り取材し感じたことで、染織をこうも表現した


 ▼〈自然と離れることのできない人間の、自然に一歩でも近づこうとする営為である〉と(『きもの紀行』)。沖縄の「首里織」を紹介する県立日本絹の里(高崎市)の企画展を見て浮かぶのは、この言葉だ

 ▼琉球王国の時代から王族、貴族の衣服として継承されてきた伝統の織物。この地の気候風土に育まれた花倉織はなくらおり道屯織どうとんおりなど独特の技法によるおおらかで格調高い作品と、その背景にある「山河」「自然」に引き付けられた

 ▼さらに感銘を受けたことがあった。展示作品の多くは群馬県のオリジナル蚕品種「ぐんま200」の糸が使われているという。しかも碓氷製糸(安中市)で繰糸されたものだ

 ▼県蚕糸技術センターでは特徴ある蚕品種の育成を続けており、1993年の「ぐんま200」は、県人口200万人到達を記念して命名した。輝くような白さと染色性の良さで和装、洋装に広く使われている

 ▼これを選ぶ首里織の姿勢から、品質の高さへの評価とともに、国産絹を使うことにより危機にある日本の蚕糸業を守ろうという思いが伝わる。苦難の歴史を経てきた織物と絹の国群馬とのえにしはもっと広く知られてほしい。