暑さに強い蚕「なつこ」の性状について
「蚕糸技術センター研究成果発表会」資料より
【育成について】
○日本種原種「榛」と中国種原種「明」を掛け合わせた交雑種。
○日本種原種「榛」:二化性の日日固定種。斑紋は形、体色は青系、繭は浅縊俵型の白繭
○中国種原種「明」:二化性の中中固定種。斑紋は姫、体色は青系、繭は楕円形の白繭
【蚕糸技術センターにおける基本調査】
ア 飼育日数は、ぐんま200や錦秋鐘和と同程度である。
イ 蚕児の発育経過は斉一、虫質もぐんま200や錦秋鐘和と同様に飼育しやすく、飼育、製糸技術ともに既存技術で対応できる。
ウ 猛暑が続く初秋蚕期の飼育では、普通蚕品種と繭の大きさは同じであるが、減蚕歩合が低いため、箱収が普通蚕品種よりも1割程度増加する。また、解じょ率は普通蚕品種より高い。
エ 普通蚕品種と同程度の繭糸長、繭糸繊度である。生糸量歩合は1%程度低いが、普通蚕品種と繭重は同程度で、箱収が普通蚕品種より1割程度高いことから、生糸の生産量は高くなる。
表1 飼育に関する調査(H30初秋蚕)
蚕品種 |
孵化歩合(%) |
飼育日数(日:時) |
減蚕歩合(%) |
化蛹歩合(%) |
|||
1~3令 |
全令 |
令中 |
蔟中 |
繭中 |
|||
なつこ |
91.89 |
13:07 |
24:05 |
0.8 |
0.7 |
4.1 |
94.3 |
ぐんま200 |
90.78 |
13:07 |
24:05 |
9.8 |
2.0 |
12.5 |
78.7 |
錦秋鐘和 |
|
13:07 |
24:05 |
4.9 |
2.9 |
15.2 |
76.9 |
表2 収繭量及び繭質に関する調査(H30初秋)
蚕品種 |
箱収(kg)
|
対結繭蚕(%) |
1㍑粒数(粒) |
繭重(g) |
繭層歩合(%) |
|
上繭歩合 |
玉繭歩合 |
|||||
なつこ |
48.42 |
96.85 |
0.0 |
82 |
1.69 |
22.26 |
ぐんま200 |
43.35 |
96.49 |
0.0 |
89 |
1.64 |
23.31 |
錦秋鐘和 |
42.62 |
93.11 |
0.2 |
91 |
1.66 |
22.56 |
表3 製糸に関する調査(H30初秋蚕)
蚕品種 |
生糸量歩合(%) |
解じょ率 (%) |
繭糸長 (m) |
繭糸量 (g) |
繭糸繊度(d) |
歩掛 (%) |
小節 (点) |
なつこ |
19.21 |
77 |
1,340 |
0.32 |
2.17 |
86.3 |
94.5 |
ぐんま200 |
20.20 |
58 |
1,436 |
0.32 |
2.05 |
86.6 |
94.5 |
錦秋鐘和 |
20.16 |
56 |
1,466 |
0.33 |
2.07 |
89.3 |
95.0 |
表4 生糸特性(R1夏蚕)
蚕品種 |
伸度 (%) |
強力 (gf/d) |
ヤング率 (kgf/mm2) |
小節点(点) |
なつこ |
22.8 |
4.17 |
1,353 |
95.0 |
ぐんま200 |
22.3 |
4.17 |
1,334 |
97.5 |
錦秋鐘和 |
22.6 |
4.21 |
1,360 |
96.5 |
【農家における実証飼育試験】
○掃 立:令和元年7月18日 大胡稚蚕共同飼育所にて3令人工飼料育
○配 蚕:令和元年7月28日 配蚕以降、4令、5令を農家で飼育
○上 蔟:令和元年8月10日~11日
○繭出荷:8月20日
○飼育及び繰糸成績
ア 飼育日数:飼育経過は対象品種とほぼ同じ。給桑量も違いはなく、現在の飼育標準表をそのまま活用できる。
イ 気象状況:令和元年の初秋蚕期は、配蚕後から繭出荷する(7月28日~8月20日)まで高温が続き、災害級の猛暑と言われた昨年より暑くなった。また、初秋蚕期の飼育を行ったすべての農家が、「昨年よりも上蔟してから落ちて死んでしまう蚕や、繭の中で死んでしまう死にごもりが多く、今までに無いほど作柄が悪かった」と口を揃えていうほど蚕への被害が大きかった。
ウ 収繭量:「なつこ」の箱収が対象品種に比べ、12%多かった。
エ 繭層歩合:「なつこ」の繭層歩合は、対象品種より低かった。
オ 健蛹歩合:蚕の強健性の指標となる健蛹歩合は、「なつこ」が高かった。
カ 生糸量歩合:「なつこ」の生糸量歩合は、対象品種と同程度だった。
キ 解じょ率:解じょ率は「なつこ」が高かった。
ク 繭糸長:繭糸長は「なつこ」が短かった。
表1 収繭量及び繭質に関する調査結果
蚕品種 |
箱収 (kg) |
1㍑粒数(粒) |
繭重 (g) |
繭層歩合 (%) |
健蛹歩合※1(%) |
仕上り頭数※2 |
なつこ |
41.72 |
78 |
1.73 |
23.31 |
95.88 |
24,115 |
錦秋鐘和 |
37.14 |
91 |
1.66 |
24.00 |
86.17 |
22,373 |
※1 上繭粒数に対する健蛹数から算出
※2 箱収と繭重から飼育料1箱(3万頭)あたり繭として仕上がった頭数を算出
表2 製糸に関する調査結果
蚕品種 |
生糸量歩合(%) |
解じょ率 (%) |
繭糸長 (m) |
繭糸繊度 (d) |
歩掛 (%) |
小節 (点) |
なつこ |
19.44 |
68 |
1,293 |
2.37 |
83.40 |
95 |
錦秋鐘和 |
19.45 |
52 |
1,466 |
2.03 |
81.04 |
95 |
表3 生糸、絹糸の物性
区分 |
蚕品種 |
引張強度 (g/d) |
破断点伸度 (%) |
引張弾性率(kg/mm2) |
白度 |
生糸 |
なつこ |
3.98 |
25.7 |
1,487 |
32.60 |
ぐんま200 |
3.99 |
25.8 |
1,413 |
28.05 |
|
錦秋鐘和 |
3.75 |
24.8 |
1,404 |
34.69 |
|
絹糸 |
なつこ |
3.31 |
14.9 |
1,636 |
59.7 |
ぐんま200 |
3.57 |
17.6 |
1,441 |
62.78 |
|
錦秋鐘和 |
3.38 |
15.9 |
1,393 |
60.01 |